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ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場・人形師シン様(中)
人形師シン様の続きです。ちょっと悩んだんですがここで一旦切ることにいたしました~☆書いててやっぱりシン様はマゾなんだなぁとしみじみ…(お前が勝手にマゾにしてるだけ)





その後シンは試行錯誤を重ね、更に数体の人形を作り上げました。しかし、どれもこれもシンの自信作だったのですが、何故かことごとくこの気難しい客には気に入られなかったのです。勿論その都度代金は十分以上に支払われましたが、シンの作った人形自体は毎回無残なまでに叩き壊されてしまうのでした。せっかく自分が精魂こめて作った人形を壊されてしまうことは当然シンにとっては非情に屈辱的なことではあったのですが、それ以上に、自分がこれだけ頑張って作り上げた作品が依然客の気に染まないという事実の方がシンの人形師としてのプライドをいたく傷つけたのです。

ひょっとしたら、壮大な金をかけたただの嫌がらせでは?とすら疑心暗鬼に陥ってしまいそうなほどでしたが、毎回シンの作った人形を見た後の客の声は、感情は抑えているようでしたが、シンにはどこか悲痛な響きを帯びているように聞こえるのです。その顔こそはいつもフードに隠れて見えませんでしたが、客の失望の声を聞くたびに、シンの心も一緒に痛くなるのです。とにかく何かよほどの事情があるのに違いありません。顔も見えないし、口調は常に高飛車な上にぶっきらぼう。一体そんな客の何がここまで自分の気にかかるのか分からないのですが、とにかくシンの頭の隅にはいつもあの客の暗い声がこびりついておりました。それなのに、客の期待に応えることが出来ない自分がシンには非常に歯痒く思えるのです。

なんとかして客の求める人形を作り上げ、あの哀しそうな声を少しでも明るいものにしてやりたい。シンは次第にそう強く願うようになりました。そうして、一体どんな人形を作ればこの客の目に適うのだろうかと真剣に考えて全力投球で次回作に取り組むのでした。なにしろシンは一旦仕事を始めると、それはそれはのめりこむたちだったのです。いっそ理不尽に思える程の客の無茶な要求は、逆にシンの負けず嫌いの精神に火をつけたのです。



「今回こそは気に入っていただけると思います」

ある日、いつものように顔の見えない客と人の良さそうな従者の二人組をシンは自信満々に工房に通しました。

「さあ、いかがです」
「これは…っ」

工房の扉を開けてシンに得意げに中を示されると、思わずリオの口から驚きの声が漏れます。工房の扉を開けると…そこには実に数十体の人形が立ち並んでおりました。どれも姿形は客の注文したとおり、長いまっすぐな金髪に閉じた目。大変見目麗しく、文句なしに一体一体が大変に美しいものでした。しかし、一体何故こんなに大量に同じ人形があるのでしょう。そんなリオの顔に浮かんだ疑問に答えるよう、シンが説明します。

「同じ人形ではありながら、同じではありません。それぞれ少しずつ印象を変えてあります。世界中の美女のエッセンスを一体ずつに込めました。お客様のお持ちのイメージにぴったり一致する人形が必ずある筈です。どうぞお確かめを」

「確認させてもらう」

度肝を抜かれた従者は言葉も出ない程感心し、幾つも並ぶ人形をそれぞれじっくり見つめておりました。言われてみれば、よくよく観察してみると一体一体の印象が微妙に違うような気もします。顔の造作は殆ど同じな筈なのに、なんという技巧の持ち主なのでしょうか。さすがに人形村一の人形師、天才人形師との異名を取るだけのことはあります。そのどれもが一流の美術品と言っても過言ではありません。しかし、主人である肝心の客の方は、人形の並ぶ中を歩き回りなら、それぞれを軽く一瞥するのみ。客の歓喜の声を、シンは今か今かと期待に満ちた胸で待ちました…。




「…もう一杯!」

工房で何故か従者に酒を注いでもらいながら自棄酒に浸る美丈夫が一人。工房の床には、ずっしりと重たそうな金袋、そして見渡す限り砕け散った人形の欠片が散らばっています。一体何が起きたのかは言わずもがな。

「まあ、そうお気を落とさずに…貴方はとても良くやっていると思いますよ」
「これが飲まずにいられるか!」

言いながら青年は更に一杯勢い良く酒を煽ります。髪は乱れ、目は血走り、せっかくの色男が台無しです。自信満々で作り上げた作品の数々を披露した後のシンの気落ちはそれはそれは大変なものでした。せっかく作った人形を一つ残らず力任せに叩き壊されたシンのショックをとても見るに絶えず、従者だけがシンの工房に残ってシンの自棄酒の相手をすることになってしまったのです。主人である客のほうはといえば、冷たいことにいつものように用が済むとさっさと出て行ってしまったのですが…。

「大体なぁ!」

シンは空っぽになった手の中の杯を、勢いにまかせて机の上に叩き付けます。

「人形村の人形師シンといえば、評判を聞いて王様だって頭を下げて頼みに来るんだぞ!それが突然これこれこういう女の人形を作れと言われ、僕が作った人形を片っ端からぶち壊しまくりやがって…」
「ええ…」
「僕が心血注いで作った人形達だぞ!それを…」

シンの愚痴を聞く従者もさすがに溜息をつきました。全く人形に縁のないリオでさえ、美しく作り上げられた作品が粉々に叩き潰されるのを見るのは辛いものです。それが心血注いで自分の手で作り上げたものとなればその心の痛みもまた格別なことでしょう。シンの嘆きにリオは同情を覚えざるを得ませんでした。

「どこが悪い!とかどこが違う!とか、そんな説明も一切無しだ!それで一体どうやって作り直せっていうんだ!あまりにも酷すぎると思わないか!」
「そうですね…」

確かにシンの言う通りなのです。完成した人形が気に入らないのであれば、せめて次回に向けてなんらかのヒントがあればシンも頑張り甲斐があるというものでしょう。しかし、客は常に何も言わずにただ人形を壊し、ただ一言「次回はもっとましなものを作れ」と冷たい声で告げるのみ。全く何の参考にもなりません。一体何をどう直せば客の気に入る人形を作れるのか…。

「僕も主人に仕えて長いのですが、あの方のあんな態度は初めてです」

少しでもシンを慰めようと、杯を飲み干したシンに従者が思案顔で新たな酒を注ぎながら声をかけました。

「主人にとっては、きっと何か思い入れのあるとても大事な人形なのですよ」
「…とは言っても…もう僕はえがきうるイメージは全て作りつくしたよ。もうこれ以上新しいアイデアなんか出やしないさ。どうしたらいいのか分からない…」

シンは工房の机に突っ伏しながら、途方に暮れておりました。人形作りにおいては世界広しといえども右に出る者はいないと言われる程の天才シンが、初めてぶつかったといっても良い壁でした。この自分に作れない人形はないと慢心していたシンですが、こうなっては完全にお手上げです。

何とか手助けをしたくとも、人形に関しては全くのシロウトであるリオはどうにも出来ません。自分にできるのはせめてこの人形師の愚痴を聞いてやることくらいだと、リオは慰めの言葉をかけました。

「僕も何かアドバイス出来ればいいのですが…主人は何も話してくださらないし、なによりミュウは人間界には長くいられませんから本物のミュウを貴方にお見せするわけにも参りませんしね」
「ん?」

シンがピクリと伏せていた顔を机から上げました。

「今、なんて…?」
「ですから、主人は何も話してくださらないと…」
「そうじゃなくて!その後!」
「?ですから人間界の空気は毒ですから、ミュウは長くはいられませんと」
「そうじゃなくてーーーっ!!!」

シンの目の色が完全に変わりました。シンの体がガバっとまるでばね仕掛けのように机から飛び起き、がしっと逞しいシンの手がリオの肩を鷲掴みにします。まるで取って喰われそうな勢いです。

「ひっ」
「作るのは人間じゃなくてミュウの人形なのか!!君の主人は、そんなこと一言も言わなかったじゃないか!!!」
「え、それはそうですが、しかし…」
「それじゃあ何体作ったって気に入られないのは当たり前だ!!まさか君はミュウなのか??」

言われてみれば、目の前の柔和な雰囲気の従者も、どことなく人間離れしたような空気を纏っている様な気がするのです。何故今まで気づかなかったのか、シンは臍をかみました。客のあまりの傍若無人な態度に気を取られていて、従者の醸し出す空気に今まで全く気が回らなかったのです。しかし、リオは優しげな表情で微笑みます。

「良くお分かりですね。でも僕は人間の血が半分入っているので、純粋なミュウではありません。主人がこちらに来る供にに僕を選んだのもそのためです」
「そうか…では君をモデルに取り入れるか…でも僕の求めるイメージにはまだまだ足りない。本物のミュウをこの目で見なければどうにもならない」
「…!それは無理でしょう。人間がミュウ界に入ることは禁忌とされています。半分ミュウの僕でさえミュウ界に足を踏み入れることは許されていないんです。第一人間がミュウ界にどうやって」
「どうにかするさ。こうしてはいられない、さっさと出発しなくては」
「…出発??どちらへ?」
「決まってる、ミュウ界へだ」
「えぇーっ」
「僕は天才だ。出来ないことなどない」

物凄い自信で言い切ると、早速シンは軽い旅支度を始めました。シンは元々新しいアイデアを得るために、時々フラリと旅に出ることがありましたので、慣れたものです。いきなりの展開に、リオはただただひたすら戸惑うばかり。

「あ、あの…」
「ところで君はミュウ界に行った事がないと言っていたが、君の主人とはいつもどこで落ち合っているんだ」
「そこまでならば確かにお連れ出来ますが、ミュウ界への入り口には厳重に封印がされていますから人間が入るのは無理だと思います…なにしろ僕には触れることすら出来ないのですから。」
「それでも構わない、とにかく連れて行ってくれ」

シンは決意を固めたらしく、決して引こうとしません。あまりのシンの熱意と情熱に押され、リオは渋々でしたがその秘密のミュウ界への入り口へと連れて行ってくれました。リオの話によると、人間界にはこのようなミュウ界と人間界との通路が幾つかあるのだそうです。しかし人間界の空気はミュウにとっては毒な上、人間はミュウ界に入ることは禁じられており、その通路が使われることは殆どないのだとか。その場所は人形村からそう離れていない、人里離れた森の中にひっそりと隠されておりました。獣道を潜り抜け、鬱蒼と生い茂る木々の葉をのけると、そこには厳重に封印が施された石の扉が現れました。

「僕がご案内できるのはここまでです。僕が貴方をここまでお連れしたことがばれたら、僕の立場も非常に危なく…」
「分かった分かった、君はもう帰っていい。ここからは僕が一人でなんとかするよ」
「幸運をお祈りします」

そそくさとリオが帰った後、シンは石の扉に施された封印を慎重に観察しました。どうやら扉を開けるには何らかの鍵が必要なようです。勿論そのようなものはシンは持ち合わせてはおりませんが、もとよりシンは手先が器用で、大抵のものはそこらへんで見つかる材料でささっと作ってしまえるのです。シンは荷物の中の工具を取り出して早速作業を始めます。ミュウの工芸品は人間のものとは全く作りが違い、ミュウの細工を人間が真似ることは不可能と言われているのですが、なにしろシンは天才です。あっという間に「鍵」は出来上がりました。しかして、人間の作った鍵がミュウの作った封印を開けることが出来るのか…。作った鍵を扉の封印に恐る恐る試してみると…。扉は開きました。普通の人間の作った鍵であれば、こうはいかなかったことでしょう。これもシンが天才だったからこそ可能な技でした。

「よし!」

シンは扉を潜り抜け、ミュウ界に足を踏み入れたのです…。


「さて…ミュウ界に来たのはいいが、一体どこに行けばミュウ達に会えるんだろう」

潜り抜けた扉は、やはり反対側からもひっそり隠されるように存在しておりました。リオの言葉によれば、ミュウが人間界に降りてくることは自殺行為にも等しいわけですから、この扉を使おうというミュウも殆どいないことでしょう。しばらく森を歩き続けると、いつしか視界が開け、芸術品のような石造りの建物が幾つか並ぶ場所に出ました。どの建築様式も、シンが今まで見たこともない流線型のデザインです。

「なるほど、これがミュウの建造物か。さすがに人間界とは趣が違うな」

将来の自分の人形作りのアイデアに取り入れようと、シンはじっくりとそれらの建造物を眺めました。珍しい建築様式に、シンの興味は惹かれます。

すると、向こうから数人の女性が歩いてくるではありませんか。その女性達が身につけている服も、シンが見慣れた服とは微妙に違います。シンは軽い気持ちでその人々に声をかけました。

「あの、すいません。ちょっとお聞きしたいんですが」
「…はい?」

気の良さそうな女性達です。シンは質問を続けました。

「ミュウに出会うにはどこに行けばいいんですか?」
「…は?」

しばし沈黙が落ちました。聞こえなかったかな、と思い、シンがもう一度自分の質問を繰り返そうとしたところ…。

「…人間よ!人間が入り込んでいるわ!」

耳をつんざくような金切り声があたりに鳴り響きました。シンは大変驚いて、慌ててその場から逃げ出し、物陰に隠れました。あっという間にあたりには大勢のミュウ達が現れ、あっちでもないこっちでもないとミュウ界に紛れ込んだ人間を探している模様です。どうやら自分はしくじったようだと気づいた頃には遅く、大騒ぎになってしまいました。ここまで来たからにはすごすごと尻尾を巻いて帰るわけにはいきません。シンは意地でも自分の目的を遂げようと、とりあえず自分の身を隠すために、人間達を探すミュウ達の流れとは反対に逃げ、一際大きな建物の中へと開け放されていた窓から忍び込みました。

かなり地位の高い者が使っている様子のその広い部屋は、華美ではないけれども非常に趣味の良い装飾が施されております。その部屋の一角に、見慣れたものを見かけてシンの目は見開かれました。それは黒い外套でした。あのいつも顔を隠した気難しい客が身に纏っている外套です。ということは、この部屋を使っている人物こそがシンにあの難題の注文を出した客本人に違いありません。

扉の向こうに人の気配を感じ、シンは慌てて窓から飛び出し、窓の傍の植え込みの中に身を隠しました。扉を開けて部屋に入ってきた人物を見て、シンの目はまん丸に見開かれました。その人物は、今までシンが見たこともない程に美しかったのです。外で右往左往しているミュウ達も、遠目から見ただけではありますが、確かにどの者も噂に違わず人間とは全く違った繊細な美しさでした。しかし、この目の前のミュウは、他のミュウ達とは全く比べ物にならない程の美貌だったのです。「人間離れした」という形容詞はまさにこの人のことを言うのではないかとシンはその容姿に目を奪われておりました。絹糸のような銀の髪、紅玉のように紅い瞳、雪のように白い肌。憂いを帯びた表情が、また更にこの世の者とも思えない壮絶な美しさを更に際立たせています。

部屋の中の人物を人目見ただけで、シンの心はこの麗人にすっかり奪われてしまったのです。

その人物は部屋に入ってくると小さく溜息をついて椅子の背にかけられていた外套を仕舞いました。やはりこの人があの客に違いありません。

と、部屋の外から誰かがバタバタと駆け込んできました。ミュウにしてはなにやら顔のいかつい男です。

「ソルジャー!」
「何事だ、ハーレイ。騒がしいな」
「どうやら人間がミュウ界に紛れ込んできたようなのです。」
「そうか…」

ああ、やはりあの客の声だ。ではあの人が客なのだ。シンの疑問は確信に変わりました。外套のフードをすっぽり頭から被っているときは、多少くぐもった低い声なのですが、声質が同じですし間違いありません。シンの胸は高鳴ります。

いかつい男の声音からすると、人間がミュウ界にやってくることは非常に稀で、あってはならないことなのでしょう。確かに外では大騒ぎになってしまいました。しかし「ソルジャー」と呼ばれた麗人の方は、大して興味も無さげなようでした。

「ただいま総動員で捜索しております。よもやこの青の間まで入り込まれることはないでしょうが、お気をつけ下さい」
「分かった、気をつけるよ」

青の間?シンは植え込みの中で首を傾げました。どうやらこの部屋には名前がついているようです。随分と大仰なものだとシンはそっと思いました。しかし、「ソルジャー」という称号はシンにも聞き覚えがあります。ミュウ界を統括する者のことをミュウ達はそう呼ぶのだと聞いた事があるような気がするのです。ミュウの中でも、もっとも強大な力を持つその者は、何百年と生き続けているのだと。もし、この部屋の持ち主が本当に「ソルジャー」その人であるのなら、いかつい男の態度も、この部屋の仰々しさも確かに説明がつくような気がします。しかし、そのような人物が一体何故人間界の人形師などに用があるのでしょう…しかもわざわざお忍びで。これはますますシンの計り知れない事情があるような気がしてきました。

いかつい顔をした男は、その後細々とした報告を済ませて一つ敬礼をすると部屋を出て行きました。部屋に残された「ソルジャー」は、どこか疲れたような顔で溜息を一つつくと、シンの隠れている窓の方へと顔を向けました。

(…気づかれた?!)

シンの心臓はドキリと跳ねました。自分の姿は部屋の中からは見えない筈なのに、まるで何もかも見透かされているような気がします。

「そこに誰か隠れているだろう?出てきたまえ」


☆つづく☆
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