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ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場・堕天使シン様
ハ~イよいこの奥様方、アイタタ妄想劇場の始まりだよ☆今回は天使と堕天使の妄想です。一応シン様が堕天使なんですが、それはホラ、ワタクシの妄想ですから色々と逆な感じです。本当はさぁ~ブル~様に足コキされるシン様を書きたかったんだけどさぁ~つかそれがメインのつもりで書き始めたんだけど…お話の流れ的にお流れになっちゃいました。けしからん実にけしからん、あまりにも悔しいんでいつか足コキされるシン様を書くつもりです。今回はもっとどろどろな感じにしたかったんですが、妄想の方向がどんどんオトメな方向に捻じ曲がってきたのでえち的にはかなり不完全燃焼。けしからん実にけしからん(以下略)こんなはずじゃ~なかったんですがのぅ~。

そんじゃ~どんないい加減な設定でも悪文でも笑って許せるよって方のみ↓ドウゾ~☆





地下のような暗い階段を、一つの人影が下りていく。どういうわけか、足音は殆どしないものの、とても人間の作ったものとは思えない上質そうな衣服の衣擦れだけがさらさらと薄暗い回廊に響く。その人物は、厳密には人ではなかった。その背には、神々しいほどに純白に輝く大きな翼が生えている。彼は天使だった。しかも、ただの天使ではない。彼は、天界一の大天使で、彼に並ぶ者は天界広しといえども存在しないと噂されているほどの力の持ち主であった。その噂にふさわしく、彼はまさに人間離れした美貌の持ち主である。その髪はまるで月の光をそのまま捉えたかのような銀色に輝き、瞳は紅玉のように真紅で、抜けるように白い肌を、どこまでも白い絹の上衣と厳かなマントが覆い隠していた。その強大な力ゆえに彼は天界を出ることを許されておらず、その美貌を拝めるのは天界に住まう天使達のみ、しかも上級天使達以上に限られた特権であった。薄暗い回廊の中、彼自身の全身が薄く光を発している。神々しいという言葉はまさに彼のために作られた言葉であるかのようだった。

天使が辿り着いた前には巨大な重々しい扉が鎮座していた。天界の建造物として例外なく、人の手には不可能なほどの巧みな彫刻が装飾として施されている。天使は深く息をつくと、思い切ったかのように、重い扉を押し開けた。重い大理石の扉がゆっくりゆっくり押し開けられると、中で揺れる蝋燭の光が、ほの暗い部屋の中を照らす。

天界の深部には酷く似つかわしくない光景がそこに広がっている。磨き上げられた大理石の床に、一人の若い男が鈍く光る太い鎖で壁に縛り付けられていた。

拘束されている男-シンは、堕天使だった。

黒い細身のスラックスに、ビリビリに引き裂かれた黒い上衣がかろうじて上半身に引っかかっている。むき出しになった彼の肌には細かい引っかき傷のようなものが沢山ついており、彼を捕獲する際に暴れてついたものだろう。が、そのような風体でも彼はどこまでも美しかった。造詣の美しい天使達の中でもとびきりの黄金に輝く髪、宝石のように光る翠の目、そして…どこまでも闇のように漆黒の、翼。天界の者達にとって、黒はもはや禁忌の色に近かった。下界では当然隠していたであろう彼の翼だが、ここ天界では隠しようもない。濡れたように光る真っ黒な翼は、それが表す彼の罪深さとは裏腹に、身にまとわれる黒い衣服と相まって、皮肉なことに彼の美しさをことさらに際立てていた。

顔だけ上げたシンの瞳が、入室した天使の顔を認める。驚いたような声が重い部屋の空気を震わせた。

「…誰が引導を渡しに来るのかと思えば、貴方でしたか。…ブルー」

ズ…ン

ブルーと呼ばれた白い天使が大理石の扉を閉めると、振動で蝋燭の明かりのみが部屋の中でぼんやりと揺れる。その部屋の中だけが、この世界から切り取られて孤立した世界のようであった。シンが白い天使の入室に体を多少ずらし、チャリ、と鈍い鎖の音が響く。決して抵抗を止めようとせずに暴れ続けるので仕方のない処置だった。大天使ブルーの力がこめられたその鎖は、いかにシンの力をもってしても切断することは適わない。

彼は勿論生まれながらに堕天使だったわけではない。が、シンの天使としての生はとても短いものだった。生まれ落ちてからほんの10数年しか生きていない、天界の基準で言えばいわばひよっこである。しかし彼は生まれながらに恐ろしく力のある天使だったため、すぐに大天使の仲間入りをすることになり、ブルーとも親しくなった。シンほどの力のある天使はそういない。天界が創造されたすぐ後から生きているという噂のブルーに、生まれてすぐのシンが肩を並べたのだ。彼と同じくらいの格の天使は非常に稀少で、ブルーやキース、イライザを含めても天界広しと言えども五本の指で納まるほどだった。が、彼が大天使となってそう月日のたたないうちに、シンは堕天使となり、ほどなく天界からその姿を消してしまった。

今のシンは漆黒に染まった堕天使として、ブルーの前に繋がれている。どこまでも白く神々しいほどに輝くブルーとひどく対照的に、シンの姿はどこまでも闇のようだった。その輝く黄金の髪ですら、彼の内包する黒い深淵を縁取るものでしかない。

「堕天となった君の姿をこうして見るのは初めてだな。なるほど、皆が驚愕するわけだ。ここまで黒いとは。堕天は数人見たことがあるが、君ほどの闇に染まった者を見るのは、この僕でも初めてだ」

まるで珍しい生き物でも観察するかのような不躾な視線でブルーはシンを一瞥する。ブルーの侮蔑とも取れる辛辣な台詞に、シンは羞恥に顔を背けた。シンの表情などまるで気にも留めないかのように、続く白い天使の言葉には全くなんの感情もこめられていない。

「それにしても、背が伸びた。随分と逞しくなったようだな。君はまだ天使として成人していなかったから、成長するのも当然だが…」

ブルーの目が、破れた上衣から見え隠れするシンの肉体を値踏みするように眺める。シンの返事はなかった。ブルーも期待はしていなかった。

「君ほどの大天使が堕ちたというから、どれほどのものかと思ったが…期待外れだな。堕天らしく、この僕を誘惑するくらいのことはやってのけるかと思ったが」
「貴方がどう思おうとかまいませんが、僕はそこまで堕ちてはいませんよ」

ブルーの煽りとも思える言葉に、それまで黙っているばかりだったシンがのろのろと答える。

「まあいい。一応君の名誉のために言っておくが、君を捕らえるのにはなかなか骨が折れたよ。僕が差し向けた追っ手が何人も返り討ちにあったと聞いた。リオの協力がなければ君の居場所を突き止めるのは到底無理だっただろう。」
「あの、裏切り者…っ!」

今までずっと諦めたような面持ちだったシンの表情が急に変わり、ギリリ、と悔しげに歯噛みする。が、ブルーの言葉がそれに更に追い討ちをかける。

「裏切り者?君はよほど彼を信頼していたらしいな。リオは気の遠くなるほどの年月の間僕の下で忠実に尽くしてくれた腹心だ。君と築いた友情など、リオにとって大した価値などあろう筈がない」

シンは苦々しい面持ちで深い息を吐いた。結局のところ、堕天使となった身で平穏な暮らしなど望むべくこともないことくらいは彼にもわかっていた筈だった。天界から出られない身ではあっても、その気になりさえすればブルーの眼は実際どこまでも見通せるのだ。天界の至宝と謳われた大天使ブルーの力。それを実際に目の当たりにしたことはなかったが、きっとその力の強大さはシンの想像も及ばないところにあるのだろう。シンも勿論細心の注意を払って身を隠していたつもりではあったが、ブルーの力の前には無力だった。漆黒の翼が僅かに揺れた。

「…で?僕をどうしようっていうんですか。大体、ここはどこですか。天界の神殿にこんな場所があったなんて、初耳ですよ」
「君は天使としては若いから、知らないのも当然だ。この場所の存在は天界でも知っている者は限られている。君がここにいることを知るものは殆どいないだろう」
「何故?下界にいた僕をわざわざ取り押さえて連行してきたってことは、グランドマザーに引き渡す為なんじゃないんですか?」
「グランドマザー?」

シンの口から出てきたその名に、ブルーは僅かだが冷たい嘲笑の表情を浮かべた。

「グランドマザーの意思に背いて堕ちた君の口からその名が出るとはな。期待に沿えずにすまないが、君を連れてきたのは全て僕の独断だ」
「…どういうことです?」

シンの視線はたちまち疑心に満ちた。それはとても人間らしい表情だった。天界で生まれ育った純粋培養の天使達には決して作れない豊かな表情。堕天使になる前から、シン…いや、当時はジョミーと呼ばれていた…は人一倍感情の起伏の豊かな天使だった。天使とはおおむねグランドマザーの意思に従順に従う生き物である。だが、その例外がシンであった。彼は常に天界のあり方について不満を持っており、ときにはありていに天界の支配者であるグランドマザーを批判するほどだった。常にブルーを見ては嬉しそうな顔を作って駆け寄り、皆に邪心なく笑いかけ、あちこちに笑顔を振りまいていた。そう…天使にあるまじき強い個人的な感情を向けられ、気の遠くなるような長い年月をグランドマザーの操り人形のように過ごしていたブルーの心をいつしか溶かしてしまったほどに。

しかし、シンはある時期からブルーを避けるようになった。以前のように屈託なく笑いかけることも話しかけることもなくなり、天界の神殿でブルーと行き会っても視線すら合わせようとしない。そうこうしているうちに、彼は堕天使に堕ち、一体どうやったものか、まだ下界に下りることすら許されない年齢のうちに一人で天界から脱走したのだ。グランドマザーは自ら天界を出て行った天使には基本的に興味を示さない。シンは下界でひっそりと平和に暮らし続けられる…筈だった。

「その前に聞かせてもらおう。君は何故、堕天の身に堕とされた」
「…言えません」

質問を逸らされた上にいきなり核心を突かれ、シンはかたくなに口を噤む。

「痛い目を見る前に大人しく口を割ることだ」
「何故そんなことが知りたいんですか。貴方には全く何の関係もないことでしょう」
「関係がないだと?僕は君が生を受けたときから君のことを知っている。君が大天使に加えられる前も、その後も、僕の後をいつも追い掛け回していたのは君だろう。その君がいきなり堕天となり、天界から行方知れずになったという。僕にはその理由を知る権利がある筈だ」
「…ハ!まさか、本当にその理由を聞き出すためだけにわざわざ僕を連れ戻したわけではないでしょうね」
「そのまさかだ。僕が天界を出られないのは君も知っているだろう。これしか方法がなかった」
「とにかく僕には貴方に教える義務などありません」
「…僕を、怒らせるな…」

ただ暗いだけだった地下室の空気がひやりとその温度を落としたような気がして、シンは鎖で繋ぎ止められた不自由な姿勢で改めてブルーの方を見やった。ブルーのこのような冷酷な顔を、シンは初めて見る。外側は優しく見えても、大天使としてブルーは常に下さなければならない辛い裁きを淡々と下してきたのだと、いつかハーレイがそう教えてくれた記憶をシンは思い出した。まだシンがジョミーとして、ブルーにまとわりついていた頃だった。そう…ブルーは、ただ優しいだけでの天使ではない。シンはそれを知っていた筈だった。だからこそ、シンは…。シンはそこまで思考をめぐらせると、霧を払うかのように頭を振った。

今はそんなことを考えている場合ではない。とにかくこの部屋から脱出して下界に戻ることだけを考えなければ。一度は捕まったが、二度はない。ブルーの目を完全に誤魔化す自信はなかったが、今度こそシンは天界の追っ手から完璧に逃げおおせてみせるつもりだった。

「貴方を怒らせたら、どうなるというんです」
「僕を挑発しているのか?」

部屋の中の空気が、ズンと重い波動で揺れる。いきなり大きな力の塊がブルーの手から発せられ、拘束されたシンに叩きつけられた。

「…グッ!!」

容赦なくシンを襲った衝撃波に、鎖で縛り付けられたシンの体が大理石の床の上で跳ね、漆黒の翼が震えた。ブルーは長年天界でその強大な力を誇りながら、他者に向けてその力を使ったことは殆どない。その必要がなかったからだ。皮肉なことに、シンはブルーの持てる力の攻撃力を味わうことになった初めての存在となったのである。今回下界でシンを取り押さえた天使達とは比べ物にならないケタ違いに強大なエネルギーの塊が、シンを容赦なく叩きのめす。他の天使であったなら、その衝撃に耐えかね、すでに涙を流しながら許しを乞うたことであろう。だが、幸か不幸か、シンは耐え抜いた。自分のプライドにかけても、ここでブルーの脅しに屈するわけにはいかなかったのだ。

「…う、ふぅ、ふ、」
「次は容赦しない。まだ言う気にはならないか」
「…言えません…」

あまりの激痛に額に脂汗を滲ませ呼吸を整えるだけで精一杯のシンは、それでも声を振り絞ってブルーを拒絶する。どこまでも白いブルーの美貌が、更に氷のように凍てついた。部屋の温度が氷点下に下がったような気がしてシンがぞっとした次の瞬間、それはまた襲ってきた。汗の玉を飛び散らせ、チャリ、と重い鎖を揺らしながらシンの全身が痙攣する。

「グアァッ…!!」
「思ったよりしぶといな、君は」
「…ひ、…」
「一体誰に義理立てしているのか知らないが、素直に吐いたほうが君のためだ」
「…言え、な…ガァーッ!!!」

シンも当然全力を挙げてブルーの力を防ごうとしたが、ブルーの力はまるでその怒りを具現したかのように、シンの防御をたやすく凌駕した。同じ大天使という名を冠していても、伝説の大天使と呼ばれるブルーとシンとでは経験の差がありすぎる。静かに怒りを燃やすブルーの力の前に、シンはあまりにも無力だった。感情に任せて責め立てる者と、ひたすらそれを防ぐ者、立場の違いも二人の攻防の結果をあからさまにした。シンの張ったシールドをやすやすと貫いて、ブルーの手から発された光は、シンの努力もむなしく、次から次へとその体を容赦なく貫いてゆく。

「次は、その黒い翼をへし折ってやろうか…」

唇を噛み締めて耐えているものの、シンの全身が悲鳴を上げ、激痛にのたうち回る。体中の細胞という細胞が焼け付くようだった。狂ってしまっても不思議ではない。意識が飛びそうになりながら、意思の力のみでなんとかシンは自分を保っている。上手く焦点を結ぶことの出来ないシンの視界は、それでもその碧の瞳に目の前の純白の天使を映している。シンにこれだけのダメージを与えておきながら、ブルーは息を乱すでもなく、その髪の毛一筋乱れさせていない。

「何故言えない。君は一体何を隠している」

濡れた金色の髪を額に張り付かせながら荒い呼吸を繰り返すシンは、肉体に受けた衝撃以上の何かに耐えているようにも見え、ブルーの目の色が少しだけ和らいだ。

「…何故…僕などに執着するんです。堕天に堕ちた僕のことなど…ほうっておいてくれればいいでしょう」

固く目を閉じ、息も絶え絶えにまるで自嘲するようにシンが呟いた。

「僕のことは…、忘れてください。もはや天使でもなんでもなくなった僕には何の価値もないはずだ」
「価値がないだと?」
「僕の力はもはやこの天界では使いものにならないほどに汚れてしまった。ですから僕には天界にとって何の利用価値もないだろうと言っているんです」
「戯言もたいがいにしたまえ」
「僕をグランドマザーに引き渡す気がないのなら、一体何のために僕をここまで連れてこさせたんです。そこまで僕のことが気に食わないのであれば、いっそ貴方の手で一思いに僕の命を奪ってくれればいい。天使も堕天も不死身だが、貴方ほどの大天使ならばそれが出来るはずだ」

ビシッ!!

今度の衝撃は、天使の力でもなんでもない、肉体の力だった。ブルーの白いたおやかな手が、シンの横っ面を張り飛ばしたのである。しかし、その衝撃は、恐ろしいほどの人外のパワーで叩きつけられたブルーの衝撃波よりもよほどシンを打ちのめした。

「ブルー…?」

シンはまるで今初めて目を覚ましたかのように、信じられないものを見たかのように目を見開いて、目の前の麗人をただひたすら見つめるしかなかった。それまで圧倒的な力でシンを凌駕していた筈の白い大天使は、シンを打った手を拳に握り、顔を伏せている。シンからはとてもその表情は伺えないが、搾り出すような声が、更にシンの心を打った。

「この僕を目の前にして、言いたいことはそれだけか」
「え…」
「君の力を利用するためにこんなところまでわざわざ君を引きずり出した上、利用価値がないと知れば放り出す。そういう風に僕は見えるわけか」
「ブルー、そんな、違…」
「何が違う。僕にあれほど煩く付きまとっておきながら、都合が悪くなったら何の相談も無く一人で天界から逃げ出して…君にとって結局僕はその程度の存在だったわけだな」
「ブルー!僕は、別に、そんな…」
「では一体どういうつもりだった。何故堕天に堕とされた。何故、下界に逃げた」
「言えません…っ」
「言え!」

ブルーの血を吐くような慟哭に、必死で弁解を続けようとして顔を上げ、その自分自身の目に映ったものを、シンは一瞬信じることが出来なかった。白磁のように穢れひとつないそのブルーの頬を、涙が伝っている。驚愕に碧の目を見開くシンの口は次に何か言葉を紡ごうとしていたが、ただ掠れたような声で麗人の名前を呟くのが精一杯だった。

「ブルー…?」

この世でもっとも美しい天使と噂された目の前の麗人は、涙はおろか笑顔すら殆ど見せることのない、天界でもいわば孤高の存在だった。黙って立っていれば、天才芸術家が彫り上げた氷の彫像のようにひたすら人間離れした美貌、その仕草の優雅さも手伝って、大抵が見目麗しい天使達の中でも誰もが一目置くほどであった。その彼が、涙を流している。そのような…感情を見せるブルーの姿など、一体誰が想像出来ただろう。金剛石の欠片のような輝く粒が次から次へと紅玉のような瞳から零れ落ちる。だがブルー本人はまるで自分の身に何が起きているのか気づいていない様子で、ひたすらシンに向けて厳しい視線を向けていた。

(ガチャリ)

永遠にも思えるような重い沈黙の落ちた後、ごっそりと魂の抜け落ちたような目でブルーがその白い手を一振りすると、シンがどれほど頑張っても解けなかった鎖があっさりと切れ、カチャリと金属の音が部屋に響いた。どれほどの説得を試みても、シンの心を変えることは出来ないと悟ったのであろう。ブルーはまるで彫像になってしまったかのように、ただ動かない。それなのに、その二つの紅玉のような瞳からは次から次へと涙の粒が溢れては零れ落ちる。ブルーの薄い唇がゆっくりと開くと、乾いた声が聞こえてきた。

「行け。どこへでも…行くがいい。二度と、僕の前にその顔を見せるな」
「ブルー…」

そのままブルーは、シンに対する興味が失せてしまったかのようにシンに背を向けて踵を返した。全く自分の想像を超えたブルーの様子にシンはすっかり毒気を抜かれた様子で、そのまま床にへたり込んだ。完全にシンの負けだった。目の前の麗人が流す涙を見てしまっては、これ以上の抵抗など出来る訳がない。完全に降参するより他にどんな手があっただろうか。どれだけ言いたくない言葉でも、きちんと告げなければならない。他の誰でもない、ブルーがそれを望んでいるのだから…。結局ブルーの望みだけが、シンの全てだったのだ。

シンは頭を抱えて大きく息をつくと、なるべく目の前の大天使を視界に入れないように目を伏せ、蚊の鳴くような声で次の言葉を紡いだ。

「僕が、堕ちたのは…貴方に、邪な思いを抱いたからです」

何かを恐れるような響きで発言されたそれはとても小さな囁きだったが、既に重い大理石の扉に手をかけるところだったブルーの注意を引くには十分だった。ゆっくりと振り返った純白に輝く天使が、床に蹲る漆黒の堕天を見下ろした。

「…なんだと?」

一度口に出してしまえば、あとは楽なものだった。シンはすっかり諦めた様子で、次を続けた。

「最初はただ純粋に貴方が好きなだけだった。ただひたすら、貴方のことを沢山知りたいと思っていた…。だけど、そのうちに想いがどんどん募ってきて…僕はいつしか心の中で貴方を汚すようになった。とても貴方には言えないような事を、いつも心の中で貴方にしていたんだ…!」
「…」
「気がついたら、僕の翼は黒く染まっていた。貴方もこの翼を見れば一目で分かるでしょう、僕の罪の深さを。貴方の前にこんな姿を見せられるわけがない。天使が他者に対して情欲を抱くなんて…このように罪深い僕が貴方の近くにいられる資格などあるわけがない。ましてや、天使として天界に居続けるなど…っ!」

シンはまるでブルーの視線から逃れようとするかのように、更に頭を抱え、その長身を縮こめる。他の誰よりも、ブルーに一番知られたくなかった罪だった。ブルーを愛し、堕天に堕ちた。その事自体を後悔したことは無いと、シンは自信を持ってはっきりと言える。だが、己の欲の醜さをブルーに知られることが、堕天となり、何も恐れるもののなくなった筈のシンにとっては、何よりも恐ろしかった。心にずっと秘めていた何もかもを吐き出したシンは、身を固くしてブルーの裁きを待つ。

ブルーの目は、震えながら懺悔するシンの翼を見つめていた。濡れたように黒く、どこまでも闇の色に染まった、その翼を…。罪の証と切り捨てるには、あまりにも魅惑的な色だった。

しばし沈黙が落ちた後、シンに届いたブルーの言葉に、シンは自分の耳を疑った。

「僕を、抱け」
「…え?」

シンは顔を上げ、目の前の麗人を瞠目して見つめた。次から次へと零れ落ちる涙もそのままに、どこまでも白く輝く天界の大天使ブルーは改めて言葉を重ねた。

「聞こえなかったのか。僕を犯せと言ったんだ」
「…ブルー!無理です、そんなこと、出来ません!」
「何故出来ない。頭の中ではもう何度もやったことだろう。堕天なら堕天にふさわしく、その名の通りに…僕を汚せ」
「無理です!」

あまりにも予想を超えたブルーの要求に、シンの喉が悲鳴のような声を絞り出した。なにしろ目の前にいるのは天界きっての至宝とまで謳われた大天使ブルーだ。そんな不埒な真似ができるわけがない。シンの葛藤など気にも留めずに、ブルーが一歩シンに近づいた。シンは気が違ったかのような勢いで首を横に振る。

「君が出来ないというのなら、無理にでもさせるまでだ」
「ブルー…!やめてください、やめるんだ、ブルー!僕は、こんなことを望んで堕ちたわけじゃない!」
「では、一体何が望みだというんだ。一体何を望むんだ!僕を憎むことも出来ず、愛することもできないなら…いっそ君の手で僕を殺せ!!!」
「…ブルー…」
「僕を…置いていったくせに…」
「…!」

血を吐くようなブルーの言葉に、シンの顔がまるで電撃を受けたかのように跳ね上がり、目の前のブルーを凝視する。

今までブルーは人らしい感情など持つことのない存在だと、シンはずっと信じ込んできた。天界に住まう天使達は、良きにつけ悪しきにつけ、感情を出すということをしない。その中で、シンは酷く異端な存在だった。

だが、今シンの目の前に立っている大天使は、痛みを堪えるような表情で、ただひたすら涙を流し続けている。零れ落ちる雫すら、シンをぞっとさせるほどに恐ろしく綺麗だった。これほどに美しいブルーの姿を、シンは見たことがなかった。

(ああ、このひとは)

先ほどブルーに打ちのめされた後遺症がまだ少し残っているのか、多少ふらつく体を叱咤しながらよろりと起き上がると、シンは改めてブルーの前に膝を着いて彼の手を取った。黒い翼が、ふわりと広がった。

「ブルー。ごめんなさい、ブルー…」
「離せ」

言葉とは裏腹に、ブルーの手はシンを振り払おうとはしなかった。シンはブルーの手をうやうやしく抱くと、跪いたそのままにブルーの手の甲に口付けた。まるで、幼子を慰めるかのような仕草だった。

「泣かないで、ブルー…」
「泣く…?」
「ごめんなさい、貴方の気持ちを考えていなかった…来て、ブルー」

シンは立ち上がった。シンが天界を出て行ったときは、まだ天使としても成人していなかった年齢だったが、今のシンの背はブルーを僅かながらに追い越している。そんなところに、シンのいなくなった年月を感じ、ブルーは目を伏せた。自分の見えないところで成長していたシンの姿など、見たくなかった。既に大天使として悠久の時の流れを生きてきた筈のブルーだったが、シンが消えたたった何年かの年月はまるで永遠の時間のようにブルーを苛んだ。そう、大天使として天界を出られない自分の代わりに、配下の者達を何人も差し向けて堕天使を連れ戻すという、ブルーらしからぬ行動を起こしてしまうほどに…。

動こうとしないブルーの体を、剥き出しのしなやかな腕が囲い込む。ブルーはそこで初めて自分が黒い天使の腕の中に抱きこまれていることに気がついた。

「…何を…」
「貴方の望みを、叶えます」
「シン?」
「貴方を僕のように汚すわけにはいかないと思っていましたが、気が変わりました。貴方が本当にそう望むのであれば、僕と一緒に堕ちてください。そうすれば、貴方もここから出て行くことが出来る。貴方を…一緒に連れて行く」
「…シン」
「貴方にそんな風に目の前で泣かれて、この僕が逆らえるわけがない…貴方を天界に一人で残して泣かせるよりは、貴方を汚して一緒に連れて行く。どんな堕天よりも、貴方は魅力的だ」
「僕が…自ら君に汚されたいと望んでいるんだ。君と、堕ちたい」

シンの破れた上衣から、まだ真新しい傷口が覗いている。ブルーは思わず手を伸ばし、その傷を辿った。すると、その指先が不意に捕らえられ、シンの吐息の熱さを感じたかと思うと、次の瞬間ブルーの指先はシンに食まれていた。僅かな背の差で、少しだけシンの顔を見上げると、伏せられた黄金の睫が見える。少し長めの前髪から見え隠れする整った鼻筋、凛々しい眉。ブルーが焦がれた存在が、そこにあった。

こんな触れられ方など、ブルーは知らない。大天使であるブルーに近づく者は、シン以外にはいなかった。シンがブルーの心の中に入り込むまで、ブルーは常に孤高の存在だったのだ。シンに与えられるものならばすべてが欲しかった。ブルーはそっとシンからその手を開放した。シンが何か尋ねるような視線でブルーを伺う。ブルーはシンの頤に指をかけると、噛み付くように口付けた。

「-!」

シンが瞠目したように見えたのは一瞬だけで、ブルーは次の瞬間、シンの腕に強く抱き寄せられ、その唇を貪られていた。バサリと重い音がし、シンの漆黒の翼が二人の体を包みこむ。歯が当たるような性急な口付けを交わしながら、シンの手が首まできっちりと着込まれたブルーの衣服に伸びる。襟にシンの手がかかったかと思うと、一気にブルーの上衣は引き裂かれ、その下から肌が露になった。情欲に囚われたシンの視線が自分を捕らえるのを見、ブルーは自分の頬が紅潮するのを感じた。シンの目が、ブルーの体を這い回るように辿っていく。シンの背に広がる黒い翼に一瞬ブルーの目は釘付けになった。魂が吸い込まれていくような、闇の色だ。シンの情欲の強さを象徴するかのように、シンの翼はどこまでも黒かった。

「綺麗だ…ブルー。貴方に本当に触れることが出来るなんて、夢のようだ…」

シンの手に支えられながら、ブルーの体がそっと大理石の床に横たえられる。このようなあられもないブルーの姿を見た者は、天界広しといえどもシン以外にはいないであろう。気高き大天使を象徴する衣を剥ぎ取られても、ブルーはどこまでも美しかった。何よりも、これからシンに自分自身を与えようとしてくれているその姿が、何よりもシンの心を揺らした。

「本当に後悔はしませんか。貴方が止めてくれなければ…僕は自分を止められない」
「構わない。僕は君と共にありたい…」
「分かりました…」

シンはブルーの両手を取ると、自分の首に回させ、ブルーの細い腰をしっかりと抱いた。たったそれだけの仕草がひどく嬉しくて、ブルーは必死でシンにしがみついた。思い出の中よりも更に逞しいシンの筋肉が、ブルーの体に押し付けられる。その硬さに、自分の知らないシンの成長をブルーは感じた。どこまでも白い肌に、シンの所有の紅の刻印が散りばめられてゆく。天界を追放されてまで焦がれた存在を腕の中に抱きしめ、シンは思いのたけをブルーにぶつけた。シンに触れられるところがどこもかしこも火傷するように熱く感じ、ブルーの意識が溶けてゆく。

「…ン…っ」

組み敷かれた体に、シンの屹立が当てられる。ブルーの体が自然に緊張に強張った。そのまま、ぐっと力強く体を進められ、あまりの痛みにブルーの体がしなった。

「僕のものだ、ブルー…」
「…っ!」

ブルーの爪が、シンの背に食い込む。宥めるようにシンはブルーのほのかに汗ばんだ額に口付けた。ブルーが耐えるようにシンの肩口に噛み付いた。衝撃にのけぞる背をしっかりと抱きしめ、シンは更にブルーの体を暴いていった。

「う、くう、――!!」

シンから与えられる痛みも快楽も全てを甘受し、ブルーはのしかかるシンの体を抱きしめながら涙を流し続けた…。




意識を飛ばしかけたブルーが気がついたのは、自分をかき抱く暖かい腕の中だった。優しい手が、ブルーの髪を撫でている。

「気がつきましたか、ブルー」
「あ…」
「見てください」

シンが手の中の羽根をブルーに見せる。ブルーが気だるげに視線だけをそれに向けると、その羽根は鈍く銀色に光っていた。

「貴方の羽です。貴方は黒くはならなかった…今の貴方の翼は、髪とお揃いの銀色です。堕天には変わらないですけどね。でも良かったです、闇は貴方には似合わないから」

僕の翼がこれだけ黒くなったのは、やっぱり僕がそれだけあくどいってことでしょうかね、くすくすと悪戯っぽくシンが笑う。

「でも僕は君のその黒い翼が好きだよ。とてもよく似合っている」
「黒が似合うって、元天使に対する褒め言葉としては少々複雑ですね…」
「僕は…黒く染まらなかったのか。堕ちなかったのか…?」
「いえ、多分今の貴方なら天界を堂々と出て行けますよ。もう少し貴方が回復するのを待とうと思ったんですが、気がついたのなら丁度いい。長居は無用です。行きましょう、ブルー」

シンは床に敷かれていたブルーの衣で彼の体を包み、ブルーの体をあまり揺らさないように細心の注意を払いながら難なくブルーを抱き上げた。その上半身は傷だらけだというのに、外側はともかくシンの体の中身はすっかり回復してしまったようだ。ブルーは自分の体の中の確かな変化を実感していた。シンの体から注ぎ込まれた「何か」がブルーの存在そのものを内側から変えてしまったかのようである。しかし、それはブルーにとってむしろ心地の良い変化だった。天使として今まで感じたことのない、命の息吹のようなものが体の奥底から感じられる。これが生きるということなのかもしれなかった。

「僕のために貴方が泣いたり怒ったりしてくれるなんて、想像もしたことがありませんでした。もっと早く気がついていれば、さっさと貴方を掻っ攫ってこんなところ出て行っていましたよ」
「天界は大騒ぎになるだろうな」
「貴方はもう十分天界に貢献しました。そろそろ自分の望む生き方を選んでも良い時でしょう」
「そうか…そうだな…」
「どこに行きたいですか、ブルー?」
「君がゆくところなら、どこへでも」
「…そうして改まって言われると、照れますね」

シンは腕の中のブルーの額に恭しく口付けた。黒の翼と、銀の翼。二人の姿を覆い隠すように、バサリ、と黒の翼が大きく開かれる。それは、二人の未来の始まりだった。

「愛してます…」
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