ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場:シャングリラ・ミュージック(完)
やっとのことで最終回です(--;)頭の中で妄想している分には何でも気楽にあ~だこ~だ考えられるんですけど、いざ文章に書き起こしてみると超無理矢理な展開に冗長な文章でなんだかめんどくさくてイヤんなってきました(--;;)こんなことならサッサと書き上げておけばヨカッタ…。まあ妄想なんて所詮この程度ってことでございましょうや。あ、拍手お返事はまた次回にさせていただきますね♪。

というわけでどんなくだらん話でも許せる方のみ↓ドウゾ~☆




ジョミーがシャングリラ・ミュージックを辞めてから数年経ちました。ノア・ミュージックを辞めたサムはその後ナスカ・プロダクションを立ち上げ、紆余曲折を経ながらも確実に成長を遂げていきます。サムが立ち上げたナスカ・プロダクションは、サムが次から次へと才能のある新人を見つけて育て上げたことで今ではすっかり軌道に乗り、業界でもメキメキとその名を知られるようになってきました。ジョミーもナスカ・プロダクションに移籍してからというものの次から次へと新しいアルバムを出し数々のヒットを飛ばし、通称「シン」としていまや音楽界でその名を知らない者はない程の大物ミュージシャンになりました。勿論デビューに関しシャングリラ・ミュージックの強力な後ろ盾があったことは否めませんが、デビューは所詮きっかけでしかなく、一発ヒットで終わる者が多い中、ジョミーは確実に自らの実力で着々とキャリアを積んでいきました。

あれからジョミーがブルー社長と会う機会は全くありませんでしたが、ジョミーがあの孤独なブルー社長のことを想わない日は一日としてありません。しかし、いわばブルー社長から恵んでもらった立場に安穏と甘んじることはジョミーのプライドが許しませんでした。忙しいブルー社長のこと、とうに自分のことなど、忘れられているかもしれない…。しかしジョミーにとってはそれが自分自身へのけじめでした。ただ、一体どこまで何を成し遂げればブルー社長に一人前として認めてもらえる立場になれるものか。彼に顔向けできるような一人前の人間になりたい。ジョミーが求めるのはただそれだけで、「シン」としての自分がどれだけスターダムをのし上がろうとも、その事実には興味は持てませんでした。ジョミーの目的は、ただブルー社長にふさわしい男になること。そのためだけにただがむしゃらに頑張り続けたのです。


ある年、ナスカ・プロダクションとしてはかなり大掛かりなチャリティ・コンサートを企画することが決まりました。これが成功すればナスカ・プロダクションの地位は不動なものとなります。しかし、企画に共同出資する筈であったスポンサーの会社が、なんとイベントが実行される直前で不渡りを出し倒産。その上、巨額の金がナスカ・プロダクションから横領されていたことが判明しました。このままではナスカ・プロダクションも共倒れです。ナスカ・プロダクションの会社としての存続の大ピンチを切り抜けるには、なんとかしてこのチャリティ・コンサートを成功させるより他に方法がありません。しかし、イベントにつぎ込まれる筈だった資金が全て使い込まれてしまい、このままではイベントを遂行することも不可能です。急遽どこかからスポンサーを見つけてくるしかないのですが、しかしながら、コツコツとその地位を築いてきたとはいえ、誰の手も借りずに頑張ってきたナスカ・プロダクションはそうそう業界にコネがあるわけではありません。その上共同出資スポンサーのスキャンダルのせいで、どこに頭を下げても断られる始末。どうせ沈みゆく船に出す金はない、というわけです。それに同業者の会社としては、ライバルが減ってくれればそれだけ自分達が得をするというわけで、助けてくれるところなどどこにもありません。

しかしサムは一企業を背負う社長として、このままナスカ・プロダクション破滅の危機を手をこまねいて見ているわけにはいきません。サムは、今一番頭を下げたくない相手のところに頭を下げてスポンサーを引き受けてもらえないかを直談判しに行くことにしました。…シャングリラ・ミュージックのブルー社長のところです。ブルー社長といえば、初対面のサムに向かって色々と酷いことを言ってコキ下ろした人物です。その上、規模は比べ物になりませんがいわばシャングリラ・ミュージックはナスカ・プロダクションの最大手のライバルと言ってもよい存在。その相手にスポンサーになってもらってやっと実行できる、会社の命運を賭けたイベント。サムの葛藤はいくらビジネスに疎いジョミーといえども理解できるに余りあるものがあります。たとえ企業の規模としては小さくとも、サムはプライドの高い男です。しかし、企業の将来がかかっているということは、同時に従業員の生活もかかっているということ。それに、イベントは既に近日中に迫ってきており、もう時間がありません。

ジョミーは、サムの代わりに自分がブルー社長に頼みに行く話を持ちかけました。このようなやり方はジョミーも好みませんでしたが、以前自分に便宜を図ってくれたブルー社長のこと、自分が行けばなんとか話を聞いてもらえるのではないかと思ったのです。しかし、シャングリラ・ミュージックに着いたジョミーは、ブルー社長に目通りすることすら適いませんでした。必死でリオにコンタクトを取ったものの、『ブルー社長は現在多忙でどなたともお会いになりません』の一言で門前払いを食らってしまったのです。

「話すら、聞いてもらえないなんて…」

ジョミーは少なからずショックを受けていました。少しでも自分とブルー社長の間に絆があったと思ったのは、まるっきり自分の勘違いだったのか…。ジョミーもまさか自分が出張ったところですんなりスポンサーを引き受けてもらえるなどとは思っては居ませんでしたが、会ってすらもらえないとは想像もしていなかったのです。今までの自分の努力がまるで無駄な空回りだったかのように思えて、ジョミーは打ちのめされました。

しかし、ジョミーが会ってもらえなかったからといって諦めるサムではありません。サムは自らのプライドをぐっと呑み込んでシャングリラ・ミュージックに直訴に出かけました。実際、今の状況でピンチを救ってくれそうな力を持つ相手といえば、シャングリラ・ミュージックしかなかったのです。どれほど蔑まれたとして、他に選択肢はありません。

サムがシャングリラに出向いている間、ジョミーはずっと落ち着かず、ナスカ・プロダクションのオフィスで一人うろうろと歩き回っていました。と、事務所に電話が入ってきます。どうやらサムからの電話のようです。経理を担当しているスウェナが電話を受けました。「ええ、あら、そうなの…分かったわ」電話が切れると、待ちきれずジョミーはスウェナに事の次第を問い質します。

「スポンサーの話は却下されたそうよ…」
「そんな…」
「でもサムは見通しは明るいって言っていたわ。詳細は事務所に戻ってから詳しく説明してくれるって」

やきもきしながらジョミーがサムの帰りを待っているところに、やっと本人が戻ってきました。スウェナの言う通り、スポンサーを断られた割にはなんだか明るい顔をしています。

「サム!スポンサーの話はやっぱり断られたんだって?もう他に手はないのか?僕に何かできることは…」
「まあ落ち着いて話を聞けよ、ジョミー」

どんな話し合いになったのか、早く詳しいことを聞かせろとせっつくジョミーをとりあえず黙らせると、サムはシャングリラでの会話をジョミーに説明し始めました。既にジョミーが玉砕した話は聞いていたので、かなり緊張してシャングリラに赴いたサムでしたが、意外なことに、シャングリラ側からは丁重にもてなされ、忙しい筈のブルー社長が自ら話し合いの部屋に現れ、ナスカ・ミュージックの現状の説明をじっくりと聞いてくれたというのです。受付で門前払いを食らったジョミーにはとても信じられない話でしたが、ブルー社長の答えは更にジョミーの予想の上を行くものでした。


『シャングリラ・ミュージックは今回のチャリティーには参加しない。会社としての意向だ』
『そこをなんとか…っお願いします!』
『わざわざこうして頭を下げに来た君の心意気は買おう。だが、シャングリラが参入すれば、シャングリラの名前に釣られて参加を決める企業も出てくるかもしれない。君はそれでもいいのか』
『え…?』
『確かに多くのスポンサーを集めることも大事だ。シャングリラが出れば、多くの資金が集まるだろう。だが、それはシャングリラの名前目当てで集まる金だ。君の会社を長期的に渡って支えてくれるようなスポンサーを見つけなければ意味がない』
『…これは…なんですか?』
『そのリストに載っている人物をひとりひとり当たってみたまえ。彼等はブランド名に踊らされることのない、信用できる者達ばかりだ。まだ時間はある。君自身が誠意を持って頭を下げて頼みさえすれば、快く承諾してくれるだろう』
『…!ありがとうございます!やってみます!』
『それから、これを持っていきたまえ』
『小切手…?…!これは…っ!頂けません、こんな大金!』
『やれやれ、資金集めが君の仕事だろう…欲の無い男だな。心配しなくても、これは僕のポケットマネーから出ている。企業としては名前は出さないが、個人的に資金の援助はするということだ。他を回って必要な金額が集まればそれは使わなくてもいい。代わりに新人の育成に回してやって欲しい。本物の才能を育てるためには資金は幾らでも必要だ。ジョ…、シンはもう押しも押されぬ大物だから今更支援は必要ないだろうが、彼一人だけではなく、もっと会社の看板になるような人物を育てていく必要があるだろう』
『…』
『話はこれで終わりだ。僕は忙しいのでね』
『…ありがとうございます!精一杯頑張ります!』


「…ってわけなのさ」
「まさか…だって、ブルー社長は…」
「お前というコネを使うようなセコイ方法はお嫌いってことなんじゃないか。やっぱりオレがこの会社のトップなんだから、オレがちゃんと自分で頭を下げて回るべきだったとオレも思う。今回のチャリティーのことだけじゃなくて、オレの会社としての行く先をちゃんと考えてくれたんだ。あの人はやっぱり凄いナァ、シャングリラを一代で築き上げただけのことはある。いつかオレもあんな人になってみてぇよ…」
「サム…」

呆然とするジョミーの前で、サムはしきりに感極まったように一人で頷くばかりです。そして、善は急げとばかりに、ブルー社長から渡されたリストに載せられた人物に片っ端から会見の申し込みを入れるよう、事務員に指令を出していました。つい今朝方まで心身ともにやつれきっていたサムですが、見違えるようなバイタリティを取り戻したようです。そして、ジョミーは一人で、ブルー社長の人格を一瞬でも疑った自分の心に恥じ入るばかりでした…。


ブルー社長から渡されたリストの人物達に片っ端から体当たりでアポを取り付けて奔走したサムの尽力で、なんとか資金は集まり、予定通りにチャリティ・イベントが開催されることとなりました。勿論ブルー社長は会場には来ていませんが、ジョミーはリオを通して「中継を見ていてください」とブルー社長にメッセージを送ったのです。数々の大物ミュージシャンをゲストとして迎え、イベントのトリを飾るのは、期待の新星、「シン」です。世界中の人々が注目している中、「シン」の新しい新曲の御披露目の場となる予定でした。

ブルー社長は勿論仕事中でしたが、一応オフィスでTV中継をつけていました。ジョミーからメッセージを貰ったということもありますが、職業柄初めからイベント中継を見逃すつもりはありませんでした。特に画面を見るわけではなく、流れてくる音楽から、最近のアーティストの傾向についてなど頭の中で思い巡らせたりしていたのですが、ついにチャリティ・イベントは最終盤を迎え、大トリとしてジョミー、いえ「シン」の登場する順番となりました。いまや押しも押されぬミュージシャンとなったジョミーの活躍ぶりは時折画面の中で見かけてはいましたが、こうして生中継で曲を聞くのは久々のことかもしれません。ジョミーが移籍してからというもの、連絡を取り合うということが全くなかったので、ジョミーからメッセージを貰ったときには少々驚いたものです。確かにデビューの後押しをしたのは自分ですが、ブルー社長はジョミーの実力を全く疑っていなかったので、今日の「シン」の成長を眩しく感じていました。すると、「シン」の挨拶の言葉がブルー社長の耳を打ちました。

「今日はこの場で僕の新曲を披露する予定でしたが、急遽曲目を変更することにしました」
「この曲を書いたのは僕ではありません。その人はもうこの世にはいないけれど、その人の歌は僕の人生を変えました。今の僕があるのは、その人のおかげです。だから、今日のこの場をフィシスに捧げます。彼女の想いが世界中の人々に伝わることを願って」

まさか…書類をめくっていたブルー社長の手が止まり、その目がTVモニターに釘付けになります。まさか…。そしてスピーカーから流れてきた音楽は…あのフィシスの曲ではありませんか!ブルー自らが世に出したいと願いながら、どうしても手をつけることが出来なかった、あの歌です。数年前にジョミーに引き渡して、ジョミーも既にそんなことなど忘れていたに違いないと思っていたあの歌が、今、ジョミーの手によって世界中に流れています。同時に聞こえてきたのはフィシスの歌声…。古い古いテープから、フィシスの声だけを綺麗にノイズを消して抽出し、バックコーラスとして取り入れてあるのです。まるで本当に生で効いているかのようなフィシスの美しい歌声に、ブルー社長の手が震えます。まるで妹が本当に蘇って画面の中で歌い上げているかのようです。目が見えなくとも、どんなに貧しい暮らしの中でも、決して希望を失わずいつも輝き続けていたフィシス。音楽を愛し、歌を愛する妹をいつまでも守ってやりたいと思った自分。ブルーの奏でるギターを誰よりも喜んでくれ、同じように音楽を愛する自分を励ましてくれていた…。当時の幸せだった日々の思い出が一気にブルー社長の中にあでやかに蘇ります。

そして、フィシスの歌声に被さるように流れてくる、「シン」、いや、ジョミーの伸びやかな歌声…。傷ばかりを負ってきた自分にはどうしても成し遂げることが出来なかったフィシスの夢を、ジョミーがまさに今、自分の代わりに成し遂げてくれているのです。

「リオ」
『はい』
「悪いが、今週の予定は全てキャンセルしてくれ。僕はしばらく休暇を取る」
『分かりました』

ブルー社長とリオはお互いの顔を見ないようにしながらそれだけ会話を交わし、ブルー社長は社長室を出て行きました。社長室には、TVモニターから流れる、イベント聴衆の大喝采と拍手の渦ばかりが響いていました…。



「…なんだって?!ナスカがシャングリラに買収された?!」
「声が大きいわよ、ジョミー」
「スウェナ、一体どういうことなんだ、僕にも分かるように説明してくれよ!」
「つまりね、本日付でナスカ・プロダクションとシャングリラ・ミュージックとの合併が決定されたのよ。でも、会社の規模を考えたら体のいい買収、吸収ってことかしらね」
「サムはなんて言ってるんだ!!」
「サムの意向は関係なしに、もう決まってしまったことなのよ。どうにもならないわ」
「今サムはどこにいるんだ?!」
「シャングリラ・ミュージックに呼び出されてるわよ」

しかし、サムはサムで、ジョミー以上のショッキングなニュースを聞かされていたのです。

「…すいません、もう一度繰り返してくれませんか?」
「サム・ヒューストン。本日付でナスカ・プロダクションとシャングリラ・ミュージックは合併する。シャングリラの現代表取締役は引退し、その後釜の次代代表取締役として君が就任することが決まった。ちなみに私が副社長として君のサポートをすることとなり、ブルー現社長は引退後はアドバイザーとしてのポジションに着くことになる」
「お、俺…が…ナスカとシャングリラの…社長?」
「ブルー社長は君の業績を非常に評価している。今回の決定も全てブルー社長の意向だ」

サムはあまりにも驚きすぎて開いた口が塞がりません。ナスカのような会社がシャングリラ規模の会社に買収、吸収されてしまうことはよくあること、何もかも諦めてシャングリラに呼び出されてきたというのに、シャングリラ側はサムを自社の社長に迎え入れるというのです。目の前の厳しい顔つきをした男、キース・アニアンが副社長として就任するということですが、基本的に全ての権限はサムに一任されるとのこと。大胆にも程があります。一体全体、ブルー社長というのはどれほどの変人なのでしょう…。



チャリティ・イベントから一週間程たった頃、ブルー社長、いえ、ブルーはコテージ『テラ』の湖が見える部屋で、一人グラスを傾けながら物思いに耽っていました。外は一面真っ白な雪景色だというのに、バルコニーへ続く窓は開けっ放しで、身を切るような冷たい空気の中、ブルーは一人ぼっちでただ外の景色を眺めていました。

フィシスの曲を世に出したくてがむしゃらに頑張ったあの頃。自分と同じような目に遭う者を少しでも減らしたくて、必死で会社を作り上げてきました。しかし、TVから流れてきたフィシスの歌を耳にして、ブルーはやっと自分の願いが成就されたように感じたのです。サム・ヒューストンは確かにまだまだ経験も浅いですが、サムの心意気と手腕をブルーは高く評価していました。経験の浅さに関しては、キース・アニアンをサポートにつければ安心です。二人は性格も随分違いますが、サムの持ち前の性格を考えればきっと上手くいくだろうと、ブルーは全く何の心配もしていませんでした。アドバイザーという形だけの地位は残っていますが、事実上の引退です。一生遊んでも困らないだけの財産も築き上げ、ブルーはこれからは昔のように心の赴くままに曲を作り、「テラ」として細々発表していくことに専念したいと思ったのです。リオは社長秘書から「テラ」の専属マネージャーに立場が替わるだけで、ブルーのマネージメントはそのままに続けたいという意向でした。

ブルーの白い手が、ソファに立てかけてあった古びたギターを取ります。小さなボロボロのアパートで妹とリオと三人で暮らしていたときにブルーが弾いていたギターです。まだお金がなくてあまり良い楽器が買えなかったのですが、あの頃はその古いギターを弾きながらフィシスと一緒に歌を歌うことが一番の喜びでした。ギターは大事にとってあったものの、辛くて触れることが出来ず、「テラ」としてのレコーディングは全て新しく購入した楽器で行っていました。フィシスが死んでしまったとき、ブルーは涙を零すことさえしませんでした。いえ、涙自体が流れてこなかったのです。同時にブルーの顔からは一切の笑顔が消えました。悲しみも喜びも、何も感じることが出来ず、フィシスと共に、全ての感情がごっそりブルーから消えてしまったのだと思ったものです…。しかし、フィシスの想いはジョミーの手によって世に放たれました。フィシスの歌を聴いて泣いてくれたジョミーの姿を見たとき、ブルーはジョミーになら傷だらけの自分のなし得なかった夢を託してもいいような気がしたのです。そして、ジョミーは自分の期待通りに育ってくれました。

男性にしては白くて細い指が、ポロ…とギターの弦をかき鳴らします。あの、フィシスの歌です。そして、フィシスが死んでから初めて、ブルーは小さな声で自らの奏でる音楽に合わせて歌を歌い始めました。いつも希望に輝いていたフィシスを思い出しながら。

愛を諦めないで
夢を諦めないで
ずっと傍にいるから
いつも傍にいるから


ぽろりとブルーの目から涙が零れます。銀色の睫がダイヤモンドのような水滴にしっとりと濡れ、ぽろり、ぽろりと次から次へと雫が零れ落ちていきます。長年ブルーの胸につかえてきた何かが、一緒に抜け落ちていくような気がしました。ブルーは、初めてまともにフィシスの死を悼むことができたのです。今は亡き妹に捧げるかのように、ブルーの伸びやかなテノールの声が外の雪に吸い込まれていきます。

愛を諦めないで
夢を諦めないで
ずっと傍にいるから
いつも傍にいるから


と、ブルーの声に被さるように、優しい歌声が扉のところから響いてきました。ジョミーです…。ジョミーとブルーの歌声は、優しく絡み合って雪の降り積もる湖の湖畔へと流れていきました。ジョミーの声に自らの心が温かく包み込まれるような気がして、ブルーはぽろぽろ涙を零しながら歌い続けました。二人が歌い終わると、それまで歌いながらゆっくりと近づいてきていたジョミーに、ブルーの氷のように冷え切った体が背後から包み込まれます。

「ここに来ているだろうと思いました」
「ジョミー…」
「こんなに体が冷えて。氷のようですよ」
「…そうか…全然、気づかなかった。涙が出ないことも、今までずっと気づかなかった」
「寒かったでしょう?一人より、二人のほうがずっと暖かいですよ」
「うん…そうだね、…君の言う通りだ」
「妹さんは、喜んでくれたかな…」
「君のおかげだよ」
「僕、貴方と一緒にいたいです。ずっと貴方が好きでした」
「うん…」
「ずっと待たせてしまって、ごめんなさい」
「君が謝ることじゃない」
「ずっと…貴方の傍に、いてもいいですか」
「うん…ジョミー、うん…」

暖かな腕に背後から包まれ、涙で濡れ、氷のように冷たくなった頬を両手で包まれ…ブルーは今まで本当に凍ってしまっていた心の芯から溶けていくような気がしました。初めて出会った頃に比べると、ジョミーは一人前の男として格段に逞しくなっており、伝わる体温からもそれが十二分に感じられます。優しいジョミーの求めるその先を、ブルーは痛いほどに分かっていました。昔騙されてズタズタに傷つけられてから、他人に触れられることが何より恐ろしかったブルー。ジョミーから向けられる好意に気づいていながら、気づかないフリを続け、あえて冷たく当たっていたのです。しかし、ジョミーならば信頼して自らの全てを任せられるという安心感に、更に体が熱くなるような気がするのです…。

「プライベート・エリアに、僕の…寝室があるから…」

強く抱きしめられた腕の中から、消え入るようなか細い声が聞こえます。二人の間にそれ以上の言葉は必要ありませんでした、ジョミーは何も言わずにブルーの額に口付けると、軽々とブルーを抱え上げ、宝物のように大事に運びながらプライベート・エリアに消えていきました…。



「ブルー!」
「やあ、おはようジョミー」
「おはようじゃありませんよ、ベッドにいないからあちこち探したんですよ…」
「心配しなくても僕はどこにも行かないよ」
「そういう問題じゃなくて…朝はやっぱりちゃんと顔を見ておはようって言いたいじゃないですか」
「なら君ももっと早く起きることだね」
「だってそれは貴方が夕べ…」

やっと探し当てた恋人は、Tシャツにジーンズというラフな格好で、ギターを手にしてバルコニーに座っていました。Tシャツの袖や襟から白い肌に刻み付けられた古い傷跡が見え隠れしますが、本人は全く気にする様子もありません。くすくすと優しく笑いながらブルーが不服そうなジョミーの頬におはようのキスを落とします。なんだかんだ言ってブルーの笑顔に弱いジョミーはそれだけで降参です。

ブルーはすっかり社長業を引退し、「テラ」としての作曲活動に専念していました。今ではブルーとジョミーは基本的にコテージ「テラ」で暮らしており、必要に応じてシャングリラ本社に顔を出すような生活を続けていました。サム・ヒューストン社長とキース・アニアン副社長は性格は正反対ながらも相性は良いらしく、さまざまな企画を抱えて精力的に活動を続けています。今度の企画の一つは「シン」と「テラ」のコラボレーションアルバムなので、ブルーとジョミーの二人は朝から晩まで額をつき合わせて作曲のアイデアを一緒に練っているのです。しかし、夜は夜で二人の関係は仕事仲間から恋人のそれに変化します。体中に残る傷跡を気にしていたブルーですが、傷跡のひとつひとつを丁寧に愛してくれるジョミーのおかげでコンプレックスも殆どなくなってきました。「テラ」としてのブルーは相変わらずメディアの露出を避けてはいますが、以前よりものびのびとした心持で作曲活動を行えるようになりました。そんな変化に『良い傾向ですね』とリオも頬をほころばせます。

想いを通わせるまでに紆余曲折あった二人ですが、ブルーとジョミーは、そうしていつまでも幸せに暮らしました…。
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