ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場:美少年と野獣
ネタがないな~と思うと思わずおとぎ話に走るワタクシ(苦笑)ワタクシの考えるネタですから、当然野獣はブル~様です☆以前チャットでもちょっと美女と野獣設定の妄想を披露したことがあったのですが、なんだかベッタベタであまり気に入らなかったので、少しサッパリ風味に焼き直してみました。たまにはほのぼのもよかろうかと…(^。^)

そんなわけで超適当ネタですが、お暇な方はどうぞ~♪↓






昔昔あるところに、それはそれは大変強欲な商人がおりました。商人の住む村から少し離れた森の奥深く、化け物が住むという言い伝えの豪邸があるのでした。ある日商人は商いの旅の帰り、ふとした気まぐれからその化け物の住む豪邸を一目覗いてやろうという気になったのです。

豪邸はその周囲をぐるりと囲む塀と薔薇の茂みに覆われており、とても中には入れそうにありません。しかし商人は無理矢理塀をよじ登ると、中にこっそり忍び込みました。塀の中にはそれは美しい庭園が広がっており、欲を出した商人は、邸宅の中に潜り込んで値打ちものでも掠め取っていこうと考えたのです。普通に考えても泥棒なのですが、商人にとって「化け物」は尊敬するに値しない存在でありましたので、勝手に物を盗んでいくことに全く良心の呵責を覚えることがなかったのです。

しかし、邸宅に潜り込もうとした商人の全身は、いきなり薔薇の蔓に捕らわれて、あっという間に縛り上げられてしまいました。なんということでしょう、この豪邸にはただ化け物が住んでいるばかりではなく、全てのものに魔法がかけられているかのようです。とにかく商人は青褪めましたがどうにも逃げられません。なんとかしなくてはともがく商人の前に、この豪邸の主らしき人物が現れました。商人は今度こそ全身から血の気が引きました。人間の服こそ身に着けてはいるものの、目の前に立っていたのは全身毛むくじゃらの獣だったのです。

「…屋敷に勝手に入ろうとしたのはお前か」
「…す、すみません!!つい、出来心で…命だけはお助けを…」

ガタガタ震えながら商人は必死で命乞いをします。

「命だけは助けてやってもいい」
「ほ、ほんとですか!!」
「その代わり、お前の娘を一人身代わりとして僕に差し出せ」
「…なんと…!」
「できるのか、できないのか」
「わ、わかりました、差し出します!!」
「期限は明日の真夜中12時だ。それまでに身代わりの娘を、お付きの者一切無しで一人でここまで寄越したまえ。約束の時刻までに誰も来なければ、お前はどこにいてもすぐさま命を落とすことになるだろう」

商人は身代わりの娘を連れてくることを約束させられ、命からがら逃げ帰りました。

ところが、ここで大問題があったのです。商人には確かに三人の子供がおりましたが、全て娘ではなく息子でした。息子達は上からシロエ、トォニィ、そして末っ子はジョミーといいました。上の二人は正妻の産んだ子供でしたが、末っ子のジョミーは、商人が召使の女に手をつけて産ませた子供で、小さい頃から召使達に混じって育った子でした。その母親が死に、やっと本邸に引き取られたジョミーですが、その生まれ故に気位の高い屋敷の者達皆からやたらと蔑まれていたのです。

「丁度いい、あいつを厄介払いしてしまおう」

勿論ジョミーは娘ではありません。しかし誰か屋敷に到着さえすればいいので、その後化け物が怒ったとしても、その咎を受けるのはその場にいるジョミーになる筈です。とにかく自分さえ助かればよいのだと、商人は子供のジョミーを言いくるめて送り出すことにしてしまいました。行き先が化け物の住む屋敷だということは勿論伏せてのこと。ジョミーはまだやっと14歳、居心地の悪い本宅にいるよりは、新しい場所で新しい人間関係を作っていくのも悪くないかもしれないと、前向きに考えることにしていました。ジョミーは実際、欲の皮のつっぱった父親よりは、母親である優しい召使の女にとてもよく似ていたのです。

というわけでジョミーは化け物屋敷にそうとは知らされずに送り出されることになりました。

(うわぁ…大きい庭園だなぁ…僕の村全部がすっぽり入ってしまいそうな…)

すっかり感心してきょろきょろしながら屋敷へ向かうジョミーです。屋敷は相変わらず鬱蒼と薔薇の茂る塀に囲まれていましたが、ジョミーが近づくと何故か門がひとりでに開いたので、ジョミーは問題なく庭園に足を踏み入れることができたのです。屋敷自体もまた、素晴らしく大きな豪邸です。何十人でも住めてしまいそう。贅沢な商人の息子でありながら、召使達の住まいで育ったジョミーには、中がどんななのかすらとても想像もつきません。(ギィ…)どうやら玄関らしい扉に辿り着くと、やはり扉がひとりでに開きます。一歩足を踏み入れて…ジョミーは感心しすぎて開いた口が塞がりませんでした。中は外から想像した以上に広く、趣味の悪い商人の家などと違って、住む人の風格というものを感じさせる内装でした。

「こんばんは~、どなたかいませんか~?」
(こんな凄い屋敷に住んでる人って、どんななんだろう)

そう思いながらぐるりとあたりを見回すと、つい鼻の先の人影にうっかりぶつかるところでした。いつのまにそこに現れたのでしょう、この屋敷の主に違いありません。しかし…全身ふさふさとした毛に覆われ、顔には一対の血のように紅い瞳がギラギラと輝き…そこに立っていたのは明らかに人間ではありませんでした。

「ぎゃあああああああああああああああーーーー!!!!」

広い玄関ホール一杯に少年の絶叫が響き渡り…そしてドサリと何かが床にぶつかる鈍い音。あまりのショックにジョミーは気を失ってしまったのです…。


…三人目ですね…
…三人目だな
そうだね
お前、本気なのか!しかもこいつはどう見ても男だぞ!!今からならでも遅くない、こいつを追い出せ
でも屋敷の中に入れてしまったのだからそうもいかないだろう
本当にいいんですか…?
だが、こいつは男じゃないか!
この際誰でも一緒だろう…気立ても悪くなさそうだし、退屈しなさそうだし、いいんじゃないか
お前、自分で言っていることが分かっているのか、大体…
ご主人様、本当にいいんですか

どうやら自分の周囲で3人くらいの人間が交互に口を聞いているようです…。ジョミーの意識はぼんやりと浮上してきました。3人目ってなんだろう、男だと何か都合が悪いんだろうか…ジョミーは「お前が犠牲にならなければ村の者皆に迷惑がかかるのだ」という嘘八百をまるっと信じて連れてこられたため、自分が役目に適わないなると大変に困ると思いました。思い立った途端に、ガバリとジョミーは起き上がります。

「ぼ、ぼくは男だけど、家の中のことなら何でも出来ますし一生懸命働きます!頑張ってお役に立ちますので、どうか僕をここに置いてください!村に戻されたら皆に迷惑がかかってしまいます!」

いきなり起き上がって土下座をするジョミーに、ひそひそ話をしていた三名が物凄く驚いたような気配を感じました。

「…まぁ、その、顔を上げてください」

優しげな声につられて顔を上げると、そこには空中にふわふわと浮かび上がるティーポットがあるばかりでした。

「…?!!?!?!」

「そんなに怯えなくても取って食わないから落ち着いたらどうだ」

低い声の持ち主は、どうやら壁の大きな柱時計のようです。

「君は、気を失っていたんだ。急に動かないほうがいいだろう」

最後の声は、気絶する直前に見た獣です。良く見るとなかなか仕立ての良さそうな服を着ています。どうやら広間のようなのですが、自分以外の三名は全て人間ではないということだけはジョミーにも分かりました。人間の言葉を喋るティーポット、柱時計、そして服を着た獣…。まるで夢を見ているかのようです。しかしジョミーの目に映るこれは現実…ちょっとブルブル震えながらも、ジョミーはとにかくここに置いてもらわねばと勇気を振り絞って懇願するのでした。

「だ、大丈夫、です。あの、お願いですから…」
「誰も君を追い返そうなんて言っていないから安心したまえ。そうだろう、キース」
「…勝手にしろ」

ジョミーが落ち着くのを待って、屋敷に住む者達は簡単に自己紹介をしました。柱時計はキース、ティーポットはマツカと名乗りました。屋敷の当主である野獣はブルーといい、見かけによらずとても礼儀正しく、教養溢れる人物でした。野獣の屋敷には、他に住んでいる者はいないようです。どうやらティーポットのマツカは元々当主であるブルーの屋敷の下働きの下男であったらしく、家の中の雑用一切を切り盛りしています。勿論ティーポットですから手足があるわけではありませんが、そこはなんらかの魔法が働いているらしく、ティーポットがふよふよと宙に浮かぶ前で箒が勝手に動いて埃を履き出したり、お鍋の中でグツグツシチューが煮えたりするのです。キースはどうやら元々ブルーの従兄弟であったようで、マツカはブルーを「ご主人様」と呼び、キースのことは「キース様」そしてジョミーのことは「ジョミーさん」と呼ぶのが常でした。どうも皆元々は人間であったようなのですが…その辺りに関しては皆口が重く、三名の事情については語られることがありませんでした。

しかし、元々あまり恵まれない環境にいながらも、優しい母親に沢山愛情をかけてもらって子供らしくすくすくとまっすぐに育ったジョミーは、持ち前の柔軟な精神で新しい環境を意外にすんなりと受け入れました。家の中の雑事を引き受けるティーポットの手伝いを朝から晩まで頑張りました。なによりも、母親の身分が低いというだけで蔑まれ続けてきたジョミーにとっては、自分を自分としてきちんと扱ってもらえることが何よりも嬉しかったのです。なので、誰に頼まれたというわけでもないのですが、ジョミーは商人の屋敷でコキ使われていたよりも更に頑張って屋敷の中で甲斐甲斐しく働きました。庭園の手入れ、廊下の掃き掃除、窓拭き、食器洗い…。商人の屋敷でいつも意識しなければならなかった蔑視の視線がここにはありません。元々じっとしているのが苦手なジョミーは、実際どんな仕事も心から楽しんでやっていました。部屋も、召使の部屋などではなく、ちゃんときちんとした寝室を与えられました。

屋敷の図書室には、壁一杯の本棚に溢れるような本がありました。今まで本を読むことなど商人の家で許されなかったジョミーは、屋敷の仕事の合間に貪るように本を読みました。分からないことがあれば野獣に聞きました。野獣は驚くほど博識で、ジョミーのどんな質問にも丁寧に答えてくれました。野獣は、図書室の数え切れないほどの書籍を、全て網羅したといいます。驚いたジョミーに野獣はただ一言「こう見えても結構長く生きているものでね、暇つぶしさ」といつもの落ち着いた声で答えるのでした。屋敷の雑用をこなしたり、図書室の本を読む以外の時間、ジョミーは広間で過ごすのが主でした。なぜかと言うと、ティーポットや野獣と違い、柱時計であるキースは広間から動けないので、自然と屋敷の皆が広間に集まるからでした。野獣やティーポットと違い、柱時計は元々気難しいらしく、会話が弾むというわけではありませんでしたが、家族というのはそういうものなのかもしれません。

そんな暮らしの中でジョミーが気がついたのですが、ティーポットが「キース様」と柱時計のことを呼ぶとき、いつもどこか切なげな声音になるのでした。ジョミーは恋愛などにはとんと疎いほうでしたが、そんなジョミーでも、この優しそうなティーポットが柱時計のことを憎からず想っていることくらいはわかるのでした。柱時計のほうはといえば、ジョミーや当主であるはずの野獣に対してはズケズケとイヤミっぽい口を聞くくせに、ティーポットには何故か意地悪なことは決して言わないのでした。野獣はといえば、そんな二人のことは何もかも分かっているかのように、時折少しだけ哀しそうな瞳で二人(?)を見守っていることがあるのでした。

ある日ジョミーは、ティーポットを手伝って銀食器を磨いていました。

「凄いね~これだけの銀食器が一式揃っているなんて」
「普段食器を使うのはご主人様だけですからね、ジョミーさんが来てくれたおかげでやっとせっかくの食器も活躍できるというものです」
「そうなの?」
「そういえばこのセットにはお盆もついているんですよ。ご主人様一人のときは必要なかったけれど、ジョミーさんがいるしせっかくだから使いましょうね」
「お盆?でもこの棚には入っていなかったよ」
「多分屋根裏に仕舞ってあるんだと思います」
「じゃあ、僕、取ってこようか」
「お願いします。階段を上がってすぐ右側の方にあると思いますから」

ジョミーが銀のお盆を探しに屋根裏に始めて行ってみると、屋根裏部屋もそれはそれは広く、色んなものが埃を被らないように布をかぶせられて仕舞ってありました。その中でも、一際大きな額縁のようなものが壁にかかっているのがジョミーの目を引きました。

(なんだろう…鏡かな?)

近づいていってみて、かけてあった布を好奇心から掴んでみると、ばさりと重く布は床に落ち…その下から現れたのは、大きな肖像画でした。絹糸のような銀の髪、抜けるように白い肌、銀糸に縁取られた紅玉のような瞳…。ジョミーがはっと息を呑むほどに美しい人物の肖像が、額縁の中からジョミーを見つめています。

(誰だろう…こんなに綺麗な人、見たことがない…)

なにより、そのどこか寂しげな面持ちに、胸が鷲掴みにされるようで、ジョミーは時が経つのも忘れて、肖像画の中の麗人の姿に捕らわれてしまっていました。

「ジョミー、君がなかなか戻ってこないからマツカが心配して…」

野獣が階段を上がってくる音で、ジョミーはやっと我に返りました。自分が屋根裏部屋の冷たい床に座り込んでしまっていたことすら気づかなかったのです。

「す、すみません、僕…っ」
「屋根裏部屋に何かいいものでもあったかい?」

からかうような声で近づいてきた野獣ですが、ジョミーの目の前で布をはがれた肖像画を見、はっとしたようでした。

「こんなものが…まだ、あったのか…」
「この人はどなたですか?」
「昔の、…知り合いさ」
「そうなんですか。凄く…綺麗な人ですね」
「綺麗…?まさか、馬鹿馬鹿しい」

いつもの野獣らしくない、吐き捨てるような口調にジョミーは驚きました。他人のことを決して悪く言わない野獣にしては、大変に珍しいことです。

「どうしてそんな言い方をするんですか?この人、何か悪いことでもしたんですか」
「人の見かけが美しいかどうかなんて、本当にくだらないことだ」

苦々しい口ぶりに、ジョミーは急に思い当たりました、どれだけ気品があったとて野獣はどうみても獣に違いないのですから、普通の人間の見かけを持たぬ我が身を疎んじているのかもしれないと。だから肖像画の中の麗人に気を取られていた自分が気に食わないのかもしれません。野獣の気持ちを傷つけたかもしれない、と思うとジョミーの心はちょっと痛みました。しかし、何故かいつもの彼らしからぬ言動を取ってみせる野獣の振る舞いも気になるのです。そこでジョミーは珍しく野獣に言い返しました。

「くだらないって言うけれど、誰だって綺麗なものは好きでしょう」
「見かけだけで人を判断するのは愚かだといっているんだ」
「でもブルー、僕は貴方もこの肖像画の中の人と同じくらい綺麗だと思いますよ」
「…何を言っているんだ、からかうのもいい加減にしたまえ」
「だって、貴方は僕とは随分見かけは違うけれど、心はとても綺麗な人だと思います。この肖像画の人も、貴方も、美しさは違うけれど…やっぱり貴方も綺麗ですよ」

担がれているのかとでも思ったのか、野獣はそれきり何も言わずに屋根裏部屋から出て行きました。しかし実際のところ、ジョミーは大真面目でした。野獣は確かに見かけはお世辞にも美しいとはいえませんでしたが、気品のある立ち居振る舞い、溢れるばかりの教養、そしてなによりとても優しかったのです。図書室で読んだ本について野獣と会話を交わすとき、ジョミーはいつも時間を忘れて野獣と語り合うのが常でした。初めて見たときには血のように真っ赤であれほど気味が悪いと思われたその瞳でさえ、野獣を知れば知るほど、その瞳に引き込まれていくようでした。そして、いつもそのどこか寂しげな瞳に、ジョミーは更に惹かれていたのです。自分がこの屋敷にいることで、この寂しそうな野獣の慰めに少しでもなれればよいと、ジョミーはいつしかそう願うようになっていました。しかし勿論そのようなことを野獣に打ち明けるつもりはジョミーにはありませんでしたが…。だってやっぱり恥ずかしいではありませんか。それに、自分みたいな子供にそんな気持ちを抱かれていると知られたら、野獣にどう思われるか分かったものではありません。

商人の屋敷で寝起きしていた頃から比べると、段違いに楽しい日々が続き、あっという間に気がつけば野獣の屋敷に来てから一年ほどが経っていました。ジョミーは別に実の父親や屋敷の者達が恋しかったわけではありませんが、幼馴染の仲の良かった友人達、サムとスウェナにきちんとお別れを言う暇がなかったことだけが気がかりでした。き二人はどれだけ自分のことを心配していることでしょう。今までは屋敷の仕事に慣れるので精一杯で、そのようなことを考える余裕がなかったのですが、すっかり落ち着いて屋敷に馴染んだ今なら、多少の外出は許されるのではないかと思ったのです。なので、2日、いや、1日でいいから暇をもらえないだろうかと考えました。サムとスウェナにきちんと自分の状況を説明して、何も心配はいらないと、とにかくそれだけは伝えておきたいとジョミーは考えました。

ある日の午後、広間で皆でお茶を飲んでいるときに、ジョミーは恐る恐る一日でよいので、自分を村に帰してはもらえないか、という話を切り出しました。

カチャン、と音がしました。珍しいことに、いつも冷静沈着な野獣が、手にしていたティーカップを取り落としてしまったのです。

「あっ…大丈夫ですか、ブルー」
「手が滑っただけだよ、心配ない」

しかしジョミーの気のせいかもしれませんが、自分の台詞によって広間に一瞬緊張感が走ったような気がしたのです。

「あの…すみません、変なお願いだったでしょうか」
「…いや、そんなことはないよ。うん、もうあれから一年になるんだな。家族や友人のことが心配だろう。君が帰りたいなら僕は勿論構わないよ」
「あ、いえ、帰るといってもほんの1,2日くらいのことで、すぐにまた戻ってきます」
「こちらのことは心配しなくていい。気の済むようにしたまえ」
「…?はい…」

野獣の様子は普段と変わりありませんでした。唐突に黙り込んでしまったティーカップと柱時計のことが気になりながらも、早速ジョミーは翌日に村に帰ることを決めました。お土産に持っていくといい、と野獣にあれやこれやと持たせてもらった土産物などを簡単に荷造りし、その夜の遅く、寝る前の片付けの再確認のためにジョミーは広間をちょっと覗いてみました。薄闇に覆われた広間にはティーカップも野獣もおらず、いるのは柱時計キースのみです。

「おい」
「なんですか?」
「お前、本当にここに戻ってくるつもりなのか」
「そのつもりですけど…」
「お前がここに戻ってきたくなければそれはお前の自由だ。だが、もしお前が少しでもブルーのことを気にかけているのであれば、必ず一晩で帰って来い。いいな」
「?何かあるんですか?」
「説明するのも面倒だから単刀直入に言おう。もしお前が一晩で戻ってこなければ、ブルーは死ぬ」
「死ぬ?!縁起でもない、そんな冗談はやめてください!」
「冗談なものか。お前、俺達が好き好んでこんな姿になっているとでも思うのか」
「それは…勿論僕は何も事情を知りませんけど、でも…」
「お前は三人目だからな」
「それ、確か以前にも聞いたような気がします」
「最初の娘は、ただ金に目がくらんで、屋敷のものを沢山盗んで逃げていった。次の娘は、家に帰してやったら里心がついて二度と戻ってこなかった。お前が三人目で、最後のチャンスなんだ。だからお前が戻ってこなければブルーは死ぬ」
「…貴方の言っていることがよくわからないけれど、それなら何故ブルーは僕の里帰りを許してくれたんです」
「ヤツの考えていることは俺にはわかっているが、お前に説明する義務はない。とにかく、俺がお前を担いでいると思うならそれでもいい。だが、少しでもブルーを大事に思っているのならば、必ず帰って来い。」
「言われなくても、ちゃんと帰ってきますからご心配なく!」

自分でも良く分からない感情を見透かされているかのような気がして、さすがにジョミーもかっとなって言い返し、そのまま自分の寝室に引き上げました。

ジョミーはその晩は夜遅くまで眠れませんでした。当たり前ですが、キースに言われたことがとても気になっていたのです。彼の言うことが本当なら…。ジョミーには野獣の考えがサッパリ分かりませんでした。自分の命がかかっていると分かっていて、それでも自分を帰してくれるなんて…。しかもブルーは早く帰って来いなんて言いませんでした「気の済むように」ブルーが自分に言ったのはただそれだけです。それと同時に、ジョミーはあの寂しげな野獣の目が気になって気になって仕方がありませんでした。キースとマツカにはお互いがいる。でも、もし本当に自分がいなくなってしまったら、あの孤高の野獣は一体どうするのだろう…そう思うと、気にかかって気にかかって、一度は決めた里帰りを翻したくもなりました。

「きっと大丈夫だ。サムとスウェナの顔を見に帰るだけだし、すぐ戻ってくるし…」

なんとなくイヤな予感がするのを押し殺して、とにかくジョミーは無理矢理にでも眠りにつくことにしました。

翌朝、ティーポットと柱時計は殆ど何も言わず、野獣だけがいつもと変わらず優しい態度でジョミーと朝食のテーブルにつきました。屋敷の玄関ホールまで、ティーポットはついてこずに野獣だけが見送りに出てきました。

「ジョミー、体には気をつけて」
「ブルー、大袈裟だよ…明日には戻ってくるんだし」
「…そう、そうだったね」

野獣を安心させようと思ったジョミーの台詞にも、上の空という感じの野獣です。そんな野獣が気にかかって、ふとジョミーは毛むくじゃらの野獣の手を自らの手に取りました。

「本当だよ。必ず貴方の元に戻ってくるから」
「…」

ジョミーは本気でした。最初は無理矢理連れてこられたジョミーでしたが、今となってはすっかり屋敷での暮らしに馴染み、出来ればずっとここにいたいと望むようになっていたのです。そして、たった一日とはいえ離れがたく、野獣を置いていくがこれほどに気がかりで…。自分の気持ちがまだ良く分かっていないジョミーでしたが、里帰りから戻ってきたら一度野獣に自分の気持ちの変化を打ち明けたいと思っていました。野獣は驚くでしょうが、子供の自分をいつも一人前の大人として扱ってくれる彼なら。きっと自分のことを笑ったりしないで真剣に受け止めてくれるとジョミーは信じていたのです。

そしてジョミーは野獣の手を持ち上げると、その手に口付けました。自分では全く意識せずに、そんなことをしてしまった自分自身にも驚いたのですが、もっと驚いたことには、ジョミーの唇が野獣の手に触れた瞬間、もしゃもしゃ生えている毛ではなくて、まるで人間そのもののすべすべした肌の感触をその唇に感じたことです。

「…?!」

びっくりしてジョミーは目の前の手を見つめましたが、ジョミーの手の中に握られているのは、見た目も感触もやっぱり毛むくじゃらの獣の手。野獣はジョミーの驚きに全く気づいた様子もなく、ただ手に口付けられたことに驚いたような顔をしてジョミーを見ています。

「どうかしたのか」
「いえ…なんでもないです」

狐につままれたような気持ちで、ジョミーは野獣にしばしの別れを告げ、豪邸を出て村に向かいました。ジョミーの姿が見えなくなるまで、野獣はずっと扉の前で見送ってくれていました…。


「…行ってしまったぞ」
「そうだね」
「お前、最初から諦めていたんだろう」
「こんなくだらないゲームみたいなことを続けさせられて、生き続ける意味が一体どこにある。どうせ最初から期限は三人までと決まっていたんだ。ここらでもう断ち切るのも悪くないと思わないか」
「みすみす死ぬつもりか」
「少なくとも君とマツカは解放される。元々君達は巻き添えを食っただけだ、永遠にその姿のままでいたいわけでもないだろう」
「無理だと分かっていて、何故わざわざあいつを選んだ」
「いい子だったね。この一年、なかなか楽しかった」
「…好きだったのではないのか」
「この姿を見て僕と添い遂げたいなんて思う物好きがいるわけがないと、最初から分かっていたじゃないか。全くくだらない呪いだよ。最後に楽しい一年を過ごさせてもらっただけで僕は満足だ」
「…意地っ張りが…」
「元に戻ったら、今までの分もマツカを幸せにしてやってくれないか。もう今では君達の身分の差をどうこう言う者達は誰もいない…」
「余計なお世話だ。そんなことよりも自分の心配をしろ」
「もう、いいんだ…十分幸せな一年だったよ」


さて、村に辿り着いたジョミーです。形だけでも、と商人の屋敷を訪問して、野獣に持たされた土産物を渡すと、どうやら持たされたものはどれもこれもかなり高価なものばかりだったようで、欲の皮の突っ張った商人はあれやこれやと野獣の屋敷の様子を根掘り葉掘りジョミーから聞き出そうとしました。追求を適当にかわして屋敷を抜け出て、ジョミーは早速本来の目的であるサムとスウェナの元へと走りました。もとよりそれほど時間はないのですから…。

「ジョミー!お前、生きてたのか!」
「元気にしてた?魔物の住む屋敷に生贄に差し出されたって、みんな噂してたのよ」

幼馴染の二人は、ジョミーの無事な姿を見て大層喜びました。サムとスウェナにお土産を渡し、ジョミーは二人を心配させないように、屋敷での暮らしがどれほど楽しいものかを一生懸命語りました。

「で、いつ戻らなくちゃいけないんだ?」
「明日の午後には発つよ」
「え~、1日しかいないの?随分早いのね~」
「うん、だってね…」

そこでジョミーは柱時計キースに言われたことを繰り返しました。明日の日没までに屋敷に戻らなければ、野獣は死んでしまうのだと。しかし、ジョミーの運の悪いことに、腹違いの兄であるシロエとトォニィがこっそりジョミーの後を尾けてきていたのです。二人は、屋敷で幸せな暮らしをしているジョミーを妬み、聞きつけた話の内容を商人に言いつけました。嘘か真かは分かりませんが、商人は以前野獣の屋敷に忍び込んだとき、勝手に動く薔薇に縛られた経験がありますから、ジョミーが時刻までに戻らなければ野獣が死んでしまうという奇想天外な話も確かに本当かもしれないと思いました。そこで、商人はジョミーの下に手下の者を送りこむと、ジョミーを殴って気絶させ、縛り上げて納屋に放り込んでしまったのです。ジョミーを帰さねば邪魔な野獣は死ぬ、そうなればあの豪華な屋敷も豪奢な家財道具も全て自分のもの…商人は私利私欲のためには手段を選ばない男でした。

縛られ、納屋に転がされていたジョミーはふと目を覚ましました。慌てて外を見ると、見る見るうちに日が翳ってくるようです。日没が近い…ジョミーは焦りましたが、固く縄で縛られていてどうにもなりません。すると、納屋の屋根から見慣れた頭が二つ見えました。

「サム、スウェナ!」
「ジョミー、無事か!」
「縄を解いてくれ!早く戻らないとブルーが死んじゃう!」
「サム、早くナイフを貸して!私がジョミーの縄を切るから…」

幼馴染達の助けを借り、やっと自由になったジョミーですが、そうこうしているうちにも日没の時刻は近付いてきます。

「ありがとう、二人とも!元気で…!」

二人に今度こそ別れを告げ、ジョミーは野獣の屋敷に大慌てで向かいました。途中で商人の屋敷も通りかかりましたが、人っ子一人いません。きっと皆を引き連れて野獣の屋敷におしかけているに違いありません。ジョミーは肝が冷えた思いで道を急ぎました。ようやく屋敷に辿り着くと、もう日はまさに今暮れようとしていました。

「これも持っていけ!」
「おい、抜け駆けは無しだぞ!」

邸宅の庭園には、商人の連れてきた荒くれ者達がなだれ込んでいて辺りを荒らしまわっています。普段なら邸宅にかけられた魔法が、余所者を絶対に入れないはずなのに…やはりジョミーが出て行ったことで魔法が薄れてしまったのでしょうか。とにかくジョミーは野獣を探しました。開け放された扉から、玄関ホールが見えます。そこには鉄砲を構えた商人と、野獣の姿が見えました。真っ赤な太陽の最後の欠片が地平線に沈んだその瞬間、商人の鉄砲が火を噴きました!鉛の弾丸に胸を貫かれ、ゆっくりと野獣が床に倒れていくのが見えました。

「ブルー!!!」

ジョミーが玄関ホールに飛び込んだその瞬間、日は沈みました…。ジョミーが屋敷に戻ったことで、屋敷は本来の魔法の力を取り戻し、商人や荒くれ者達は次から次へと庭園を取り囲む高い高い塀の外にあっという間に放り出され、二度と中に入ることは出来ませんでした。荒らされた庭園や、壊された家財道具も全て一瞬のうちに元通りになりました。

…床に血を流しながら倒れている野獣を除いては…。

「ブルー、ブルー…死なないで、お願い、しっかりして」

息も絶え絶えな獣を抱き起こし、ジョミーはポロポロと涙を零しました。やっとジョミーは自分の中に秘められていた本当の気持ちに気がついたのです。この寂しい獣の傍にずっといたい。それがジョミーの本心でした。

「ごめんなさい、僕が遅くなったせいで、こんな…」
「ジョミー…か…どうして、戻ってきたんだい…」
「お願い、死なないで…ずっと貴方の傍にいたいよ…」

弾丸の貫いた傷からは、次から次へと真っ赤な血が流れてきます。ジョミーは泣きながらハンカチを傷に押し当てますが、勿論血は止まりません。

「もう、いいんだよ…最後に君が来てくれて、楽しかった…」
「どうしてそんな言い方するんだ!これからも、ずっとここにいるよ、一緒にいるよ、だから、お願い、ブルー…」

泣きながらジョミーは野獣の獣の顔に口付けました。

(…?!)

やはり、この間と一緒です。触れる手には、確かに獣の毛の感触を感じるというのに、ジョミーの唇に感じたのは、すべすべの人間の肌でした。ジョミーは目を瞑り、滑らかな頬、そして自らの唇だけで野獣の唇を探し当てると、血の味のするその柔らかな唇、思いのたけの全てを込めて口付けました。

「…ジョ…?!」
「じっとしてて…貴方が、好きなんだ…」

瀕死の状態ながら、驚いて身じろぎする野獣をしっかり抱え込み、ジョミーは自らの心を伝えようと、野獣の顔に口付けの雨を降らせます。彼が本当に死んでしまうのなら、まだ命のあるうちに自分の気持ちを伝えたかったのです…。

ふと気がつくと頬や唇だけでなく、野獣の体を抱えていた手にも、ふさふさの毛ではなく、人間の手の感触を感じるではありませんか。

「…?」

ジョミーが泣き濡れた瞼を上げると、ジョミーの腕の中にいたのは、いつも見慣れた野獣の姿ではなく…。屋根裏部屋にあった肖像画の麗人ではありませんか!いつの間にか、撃ち抜かれた胸からの出血も止まっており、自分の変化に気づかないのか、野獣だった麗人は、頬を上気させながら目を閉じていました。ジョミーは震える手でブルーの頬を撫でました。

「ブルー…目を、開けてみて」
「…ジョミー…?」

銀色の睫がゆっくりと持ち上がると、そこには、野獣と同じ美しい紅玉のような瞳が現れるではありませんか!それでは…肖像画の人物と野獣は、同一人物だったのです!

「え、まさか…呪いが、解けた…のか??そんな…」

ブルーは見開いた目で、自らの手を、しげしげと眺め、血の止まった傷口を確認します。慌ててジョミーがブルーの衣服をはだけると、弾丸の貫いた筈の場所には全く何の傷もなく、血に染まった服の下にはすべすべの白い肌があるだけでした。ジョミーはブルーの肌に傷が残っていないことを確認すると、そこで初めてブルーの肌を意識してしまい、慌ててブルーの上着の前を合わせました。ブルーは自分の手を何度も何度も眺めると、急にリンゴのように真っ赤になりました。

「あっ…ごめんなさい!その、怪我の様子を見たかっただけで」
「そうじゃない、そうじゃないんだ、ジョミー…その、つまり…僕の呪いは、獣の姿の僕を本当に心から愛してくれる人が現れたときにのみ解けるはずで…つまり、その…」
「…あっ!」
「つまり、君は、その…僕の…ことを…?」

ジョミーは野獣の姿でもブルーのことを好きになってしまったので、今更照れるのもおかしなものですが、実際に美しい姿になったブルーを目の前にすると、まるで今まで知らなかった赤の他人を目の前にしているようで、妙に照れくさくなりました。

「え、ええと、その…ぼ、僕は別に、貴方が綺麗な人だから好きになったわけじゃないよ?貴方の性格が、好きになって…」
「うん…分かってる、ジョミー…分かってる…」
「これからは僕がずっと貴方の傍にいるよ。もう貴方に寂しい思いはさせないから…」

ブルーは泣き笑いのような表情で、しっかりとジョミーに抱きつき、自らの呪いを解いてくれた少年と熱い口付けを交わしました。


一方、大広間では人間に戻ったキースとマツカがしっかりと抱き合っておりました…。身分違いということで周囲から大反対されていた二人ですが、それも大昔のこと。今ではもう二人のことをとやかく言うものはおりません。

というわけで、人間に戻ったブルー、キース、マツカは、やはりジョミーと共に、今度は優しい魔法に守られた邸宅でいつまでも仲良く幸せに暮らしましたとさ。
Comment
≪この記事へのコメント≫
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する
 
Designed by aykm.