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ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場:大正浪漫
今回はオークション派生ネタからもう一つ、大正浪漫物語でございます。なんで和モノ苦手なワタクシがわざわざ大正浪漫かっていうと、元ネタが和風だからです。ちなみにその元ネタ漫画とは「雨柳堂夢咄」の中の「橋姫」。もののけとか出てくるお話なんですが、妄想劇場にはもののけとかは出ません。今回のテーマは「すれ違いツンデレ夫婦」(^3^)じょみを起用するときはその純粋さと真摯さでズンドコ押し捲るのが好みなんですが、シン様起用となるとどうしてもツンケン意地っ張り設定で遊びたくなるのであります。

↓お約束とかどんなアホ設定でも(以下略)どうぞ~☆
時は大正あたり(雰囲気的に)、幕開けの場所は、とある華族の邸宅の庭園で催されている豪華な園遊会から始まります。煌びやかに着飾った良家の貴婦人や、偉そうな御仁などが飾りつけられた広い庭園のあちこちでは人々の談笑の声がさざめきあっています。

そこに、こっそり忍び込んだ子供が一人。ジョミー・マーキス・シン、年の頃は8歳ほどです。彼の家はとても貧乏で、当然そのような園遊会とは縁もゆかりもないのですが、好奇心の強い少年は、自分の生活からはとても想像つかないようなこの豪奢な屋敷で一体どのような奴等が集まって何をしているのだろうかと覗きに来たのであります。

真っ白なレース編みのクロスのかかったテーブルの上には、ジョミー少年が見たこともないような美味しそうな舶来の御菓子や、異国のティーポットが湯気を立てています。育ち盛りなのに貧しくいつも腹ペコのジョミーのお腹が思わずグウゥと鳴ります。あまりの空腹に我慢が出来なくなって、思わずテーブルの上の皿に手を伸ばそうとすると、どこからか伸びてきた大人の手に腕を掴まれてしまいました。

「おい、お前見ない顔だな。このガキ、どこから入ってきた!」

非常に尊大な物言いで、近くに居た大人に見咎められてしまいます。構わず何か食べるものだけでもかっぱらって逃げてしまおうかと思ったジョミー少年でしたが、その肩の上に後ろから誰かの手が置かれます。

「この子は僕の友達です。ちょっとはぐれてしまって…」

優しげな声が背後から聞こえてきます。

「お…こ、これはブルー坊ちゃん、ご友人とは知らず失礼しました」

居心地悪そうに、大人は掴んでいたジョミーの手を話して気まずそうにどこかへ行ってしまいました。ジョミーが振り返ると、子供と大人の中間くらいの年齢の、それはそれは綺麗な少年が佇んでいます。この園遊会を催した華族宅の一人息子、ブルーでした。年齢は14歳ほど。

「君、どこから入ってきたの。ここの大人達に見つかると厄介だよ」
「あ、あの…」
「ここじゃ目立ちすぎる。あっちへ行こう」

綺麗な少年はジョミーの手を取ると、あまり人影のない庭園の外れの方の林へずんずんと歩いてきます。

「あ、あの、さっきはありがとう、助かりました。僕の名前はジョミーです」
「ジョミー…いい名前だね。僕はブルー」

振り返った少年の綺麗な紅い瞳に、まだ幼いジョミーはヒトメボレしてしまいました。

「君は確か大通りの外れの家に住んでる子だね。」
「僕の家のこと、知ってるんですか」
「大人達がよくそういう話をしているから…」

林の奥深くまでやってくると、ブルーは立ち止まって改めてジョミーの方を振り返りました。

「もうここに来てはいけないよ。君にとっていいことは何一つないからね。」
「…」

なんとなく暗い色の瞳をする少年が気になりましたが、まだ子供のジョミーは何も言えずにただうなずくことしか出来ません。年がそれほど離れているというわけでもないのに、目の前の少年と自分とでは、立場も地位も何もかもが違う世界の生き物だということだけは子供のジョミーにもなんとなく分かったのです。

「お腹がすいてるんだろう。これ、あげるよ」

ブルー少年は、ジョミーにレースに縁取られた白いハンカチに包まれたものを渡しました。

「こっちの道なら誰もこないから、ここからおかえり。もう誰にも見つからないようにね」

ジョミーは何も言えずこくこうとうなずくだけで、後ろ髪を引かれる思いでしたがいわれるままに華族屋敷の庭園から逃げるように走り去りました。一度だけ振り返ると、ブルー少年はまるで庭園の精霊か何かのようにとても儚げな表情で見送っていてくれました…。後でジョミーが貰ったハンカチの包みを開けると、中には月餅が幾つか入っていました。ジョミーが今まで食べたこともないような美味しさでした。ジョミーはそのハンカチを宝物のように後生大事にそっとしまいました…。



時は流れ、貧しい庶民の家の子だったジョミーは、奨学金を貰い、とても優秀な成績で学校を卒業。同時に若いながらも事業を立ち上げ、周囲を潰すような無謀なやり方でどんどんのし上がり、若いながらも一財産作り上げたのです。一方、ブルーの父親という人はその前の当主が外の芸者に手をつけて産ませた子だったのですが、生まれながらにガラも悪く見栄ばかり張るタイプでした。豪奢な園遊会に贅沢な接待、あっという間に身を持ち崩してゆきます。その上に何も分からぬままにアヤシイ事業に手を出して大失敗し、雪だるま式に借金は増えていきました。とうとう破産の憂き目に遭い、ブルーの父親は責任の追及から逃れて失踪してしまったのです。後に残された一人息子であるブルー、病弱な母親、そして家の者達にはどうすることもできません。膨れ上がった借金を返すために、屋敷は競売にかけられることになりました。

しかし、そのような事態になってから、ブルーとって驚くべき事実が発覚したのです。なんとブルーの父親は、このような事態に陥った場合、家屋敷だけでなく、ブルーの身柄を売りに出すことを弁護士と共に公式書類に記していたのです。自らの父親に売られるとは…。しかしブルーには分かっていたのです、家屋敷を売ったくらいでは借金の埋め合わせにはとても足りないことを。ブルーは自分の容姿が嫌いでしたが、同時に自分のこの見た目に商品価値があることをイヤというほど知っていました。ですので、大事な家族や家の者達を守るため、自分の身を犠牲にすることは仕方ないことと諦め、自分の運命を受け入れることにしたのです。当然競売の会場に訪れたのは、金持ちの中でもその道の好事家ばかり。そのような客達にじろじろと好色な目で嘗め回すように見つめられ、不快なことこの上ありませんが、仕方がありません。一通り客の前に目通しされた後、ブルーは控え室に引っ込んで、競売の結果を待つことにしました。一体誰に買われていくのか分かりませんが、その現場を見ることだけはブルーには耐えられなかったのです。大事な家族や屋敷の者達を守るため、自分の運命が勝手に決められていくのをブルーはただひたすらに待つしかありませんでした。家屋敷、先祖代々伝わる高価な家財道具などにブルーは全く何の執着も持っていませんでしたが、屋敷の者達がバラバラにならないで済むように、少しでも高く自分が売れることだけを願うばかりです。ただぼんやりと控え室で時が過ぎるのを待つブルーです。競売という場に実際には不慣れのブルーにはよくわかりませんが、会場のどこかで、時折人々達がわっと沸き返すどよめき声がときどき響いてきます…。

全ての競売が終了し、立ち会っていた弁護士と話し合ったブルーでしたが、なんとある人物が屋敷とブルー自身を一気に買い取り、そればかりかアルタミラ家の全ての借金を肩代わりしてくれることになったというのです。

「それで、その人物というのは…」
「ジョミー・マーキス・シンですな。まあ、若いですが成金ですよ。今日はもう帰宅したそうですが、後日屋敷の方に顔を見せるそうです」

ジョミー…懐かしい名前です。まさか、昔に出会ったあの子ではないだろうか…しかし、シンの悪い噂はブルーもかねてより聞いております。手段を選ばぬやり方でのし上がり、押しも押されぬ資産家となった若き青年。血も涙もない冷血な男だという噂もあります。家柄をハナにかける者が多い上流社会では、シンのような者はことさら口さがない噂で貶められるのが常でした。しかし、もしシンがあのときの少年であったなら、むしろ会うのが楽しみですらあります。でも、もし別人だったなら…。

さて、後日シン本人がブルーの屋敷まで弁護士を伴ってやってきます。不安に胸を高鳴らせながらシンと合間見えたブルーです。金色の髪、碧の目。間違いありません、あの園遊会で出会った子供です。彼はそれはそれは美しい青年に成長していました。しかし、漂わせる空気は当然もはやあどけない子供の者ではありません。

「ジョ…」
「こちらがシン家の顧問弁護士です。今回の契約について間違いの無いよう、彼の方から詳細の説明をしてもらいます」

冷たい目、打算的な口聞き。何年も経っているのですから当たり前なのですが、まるで別人のようです。出鼻をくじかれて、ブルーは黙ってしまいました。シン家の弁護士が、屋敷や借金の名義などについて詳しい説明をブルーに書類を見せながら事務的にこなしていきます。それを、シンは冷たい目で見ているばかり。弁護士によると、全ての借金はシンが肩代わりし、ブルーの家族や屋敷に仕える者達は今までの暮らしを保障されるということです。しかし、ブルーが正式にシン家と正式に養子縁組を行い、シン家の邸宅でパートナーとして暮らすことが条件です。分かってはいたのです…勿論、その覚悟があって自分自身を競売に出したのですから。しかし、こうして改めて公式書面として目の前に突き出されるとさすがにブルーもたじろいでしまいます。

「ここからは僕が彼に直接話を通すから君は下がっていてくれないか」

弁護士を部屋から下がらせ、今まで黙っていたシンはブルーに向き直ります。

「貴方はなんでもすぐ顔に出るんですね。僕のところに来るのはそんなにお嫌ですか」
「…覚悟は決めている。僕が君に身売りすることで皆が助かるなら…」
「それはまた人聞きが悪いことを」
「事実だろう。僕は、自分の身を売った。君は、お金で僕を買ったんだ」
「そこまで悲観することはないでしょう。取引だとお考えになってはいかがですか」
「取引?」
「そうです。ご存知でしょうが、僕のような成り上がりの成金には、貴方のような良い家柄の華族と繋がりがあったほうが何かと都合が良い。僕は確かに金だけは腐るほどありますが、地位も家柄もありません。貴方の家名には、それなりの利用価値がある。アルタミラ家との結びつきを作ることで、僕の事業にもより一層大きな後ろ盾が出来るというものです」
「…」
「そして、貴方は家の者達を助けたい。お互いの利害が一致した、いわば政略結婚のようなものでしょう」
「政…略…」
「貴方が世間に対して僕のパートナーとして恥ずかしくない言動さえ取ってくれれば、家の中では好きになさっていて構いません」
「世間に対して?」
「そうです。公共の場では、あくまで僕のパートナーとして僕を立ててもらいたいわけです。その代わり、プライベートでは貴方が誰と何をしようが僕は一切関与しません。悪い話ではないと思いますがね」
「…そんな…ことのために、僕を買ったのか」
「そんなに怖い顔をしなくてもいいでしょう。心配しなくても、寝室は当然別にしますよ。こう見えても僕は別に閨の相手には不自由はしていません。買い取ったからといって浅ましく貴方に飛び掛るような真似はしませんよ」
「…!」

内心考えていたことを見透かされたような気がして、ブルーの頬にカッと朱が走ります。

「ご自分の役目さえきちんと果たしてくれれば、何不自由ない暮らしを保障しますよ」



というわけで、ブルーはシンの屋敷に移ることになりました。シンの言葉通り、ブルーの部屋はシンの私室からは少し離れた場所で、日常生活には全く事欠かない毎日を送ることになります。シンの屋敷の者達は、シンの気まぐれに慣れているのか、新しい主人のパートナーとしてブルーを暖かく迎え入れてくれ、もう一人の主人として敬意を払って親切に仕えてくれています。

「僕達は正式に養子縁組をしたのですから、苗字で僕を呼ぶのはおかしいですね。今日から僕のことはジョミーと呼んでください」

ブルーが屋敷に来た初日、シンはそうブルーに告げたのですが、ブルーはことさら厭味のように家の名を強調するかのように、頑なにシンをファーストネームではなく、家名の「シン」と呼び続けました。ちっぽけなプライドにしがみついて何になると自分でも思うのですが、逆らえぬ運命に従わざるを得なかったブルーの、それが精一杯の反抗の証だったのです。シンは何度かブルーを訂正しましたが、ブルーの気が変わらないと分かると諦めたのか、やがて「シン」と呼ばれることに何の反応も示さなくなりました。

シンは何の気まぐれか、何かといっては色んなものをブルーに贈ります。一流の仕立て屋で仕立てた服、宝石のついたカフスボタンや装飾品、色とりどりの花、舶来の御菓子やお茶。

「シン、この間は蘭をありがとう」
「お気に召しましたか」
「ああ…」
「そういう質素な身なりでも素敵ですけど、たまには僕が贈った服も身に着けてくれると嬉しいんですけどね。」
「外出するときはちゃんと貰ったものを着ているよ」
「来週はアニアン家の園遊会に招待されています。僕と外出するときは、きちんとそれなりにふさわしい装いをして頂かなくては困りますよ。そうでなければ、わざわざ大金を出してアルタミラ家の貴方を買い取った意味がない」
「聞こえているよ。言われなくても、『君にふさわしく』上手くやるさ」
「そうですね、せいぜい精一杯僕と仲の良い演技でもしてください。貴方はいつも不満そうだから」
「不満など、あるわけがない。君は僕の家柄を買った。僕はそれに見合った振る舞いをする。そういう取引だからな」
「…そうだ、園遊会では僕がこの間贈った真珠色のシャツを着て下さい。あれは貴方の肌にとても似合いそうだ」」
「君の顔を潰すようなことはしないさ。今日はもう疲れた、部屋に下がらせてもらうよ」
「そうですか、おやすみなさい」

表面こそは礼儀正しさを保っていますが、冷え冷えとしたやりとり。そして二人は別々の寝室に下がるのです。一人、部屋に戻ったブルーは一人悔し涙を流すのです。確かに何不自由ない暮らしをさせてもらってはいますが、ブルーの矜持はズタズタです。自分を気に入ってもらったわけでもない、ただアルタミラの名を求めていただけのシン。これでは、ただの着せ替え人形と変わりがありません。シンは自分を成り上がり者と呼んでいますが、シンは実際にはどのような場に出ても、どこの華族にも引けを取らない優雅で堂々とした物腰、立ち居振る舞いで周囲を常に圧倒させています。家名を大事にする者達からは確かに悪し様に言われていますが、意外にシンを褒める者も多かったのです。園遊会やお茶会、社交の場に出れば、他人の口からシンの良い評判を聞くこともあります。シンの姿に憧れる貴婦人達の立ち話なども耳に入ります。

ただ、第三者の口から、自分の知らないシンの姿を聞かされるたび、ブルーの心はぎゅっと締め付けられるように苛立ちを覚えるのが常でした。自分だけがシンの事を何も知らないようで不快だったのです。しかし、ブルーは何故自分がこのように傷ついているのかをちっとも分かっていませんでした。

時にはブルーは家族や屋敷の者達の顔を見に、元の自分の屋敷を訪れます。突如思い立って出かけることもありましたが、前々から元の屋敷を訪れるという予定が分かっている場合は、シンはあれやこれやと心づくしのお土産をブルーの為に用意してくれていました。「こちらもアルタミラ家の名にはそれなりの恩恵をこうむっていますからね、これくらい安いものですよ」とはシンの言です。

「最近の暮らしぶりはどうだい、ハーレイ」
「シン様は大変我々に良くして下さっていますよ。足りないものはないか、不自由はしていないか、ご自分もお忙しいだろうにお体の弱いお母様にも大変気を使ってくださいます。あの方はお若いが、なかなかどうして、素晴らしい方です。ブルー様も良いお方と縁を結ばれた…シン様が華族出身でないというだけで悪し様に言う人もいるようですが、これからは家柄の時代ではありませんな」
「そうか…」
「返しきれないほどの沢山のご恩を受けているのですから、良くお仕えするのですよ、ブルー」
「母さん」

けれども、シンは…。喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込み、シンを褒め称える執事や、体の弱い母を前にして、ブルーの気持ちは更に暗く落ちてゆく一方でした…。



シン邸でのブルーの生活も落ち着いてきた頃、シンの帰りが時々遅くなるようになりました。そしてブルーはあるとき屋敷の者の会話を聞いてしまうのです。

「シン様、夕べも遅かったんだねえ」
「そりゃあな、シン様ほどの方なんだから接待やらなんやら、色々とお忙しいだろうよ」
「忙しいといっても最近はお仕事関係だけじゃないみたいだねえ。ブルー様は確かにお綺麗だけど、なんだかお二人ともよそよそしいし」
「シン様はお若いとはいえあれだけ色男なんだから、男でも女でも向こうの方がほうっておかないだろう。愛人くらい何人かいるだろうさ」
「お前さん、さては何か知ってるね」
「おぉっと、俺は何も知らねぇって…」

その後シンの帰りが遅くなるような日には、屋敷の者を下がらせてブルーは一人でシンの帰りを待つようになりました。

「…随分と遅いお帰りだな、シン」
「僕も忙しいんですよ」

ブルーは屋敷の者がするようにブルーがシンのコートを脱がせると、ふわりと女物の香水の香りが漂います。ブルーの胸がズキリと痛みます。ブルーはシンに背を向けて、コートを外套かけにかけます。言葉がとげとげしくなるのをとめられません。

「忙しいが聞いて呆れる。君がどこで遊んでいるか知らないが、ほどほどにしておいたらどうだ」
「別に貴方に心配してもらわなくても、ちゃんと後腐れの無い相手を選んでます。妊娠させたり情を移されたりするようなヘマはしませんよ。それに、僕が外で誰と何をしようが、貴方には全く何の関係もないことでしょう」
「…!」

自分には何の関係もない…確かにその通りなのですが、ブルーはシンのその言い草に、何故だか胸の中がかっと熱くなりました。

「まさか…妬いてくれているんですか?」

緩めたタイ、シャツの上のボタンを開けたせいか、いつもよりも淫蕩な空気を漂わせながら、いつもの薄笑いを浮かべてシンが言います。

「そんなわけがあるか!一応養子縁組もしたことだし、アルタミラの家名に泥を塗るようなことはするなと言っているんだ」

ブルーはことさら吐き捨てるように言い捨てます。

「なんだ…残念ですね、貴方も僕に抱いて欲しいのかと思ったのに」

後ろからふわりとシンがブルーを抱きしめますが、シンの声は相変わらず意思が読めない平坦なものです。同時に、シンからは女物の香水に混じって、強い酒臭い匂いがしました。ブルーは思わずかっとなってシンの頬を平手で打ちます。

「放せ!」

一瞬で手が出てしまい、しまったと思ったブルーでしたが、自分を止めることが出来ません。その勢いのままシンに罵声を浴びせてしまいます。

「酔っ払って外で愛人を抱いてきたその汚い手で、僕に触るな!君に抱かれるなんて、考えただけで虫唾が走る…」

しかし、ブルーにひっぱたかれても、シンはその表情に全く何の変化も見せません。いつもの自嘲気味な薄笑いを浮かべたままです。

「虫唾が走る…か…。やれやれ、僕も嫌われたものだな…では、僕はもう休みますよ」

そしてシンは踵を返し、ブルーの方を全く振り返りもせずに私室に行ってしまいました。

いつものように冷え冷えとした自室に走り去ったブルーは、部屋に入って後ろ手に鍵を閉めると、そのまま扉を背にずるずると床に崩れ落ちます。

自分には宣言通り指一本触れないくせに、シンは外では他の誰かを抱いているのです。その相手が男か女かも分からないし、一体何人の愛人が外にいるのかはブルーには分かりません。しかし、自分は本当に家柄のためだけに買われたのだと思うと、一層胸が掻き毟られるようでした。一体シンは自分をどこまで馬鹿にすれば気がすむのか…。改めて自分の部屋を見回してみると、シンが贈った煌びやかな装飾品や衣類が山のように積まれています。しかし、シンがどれほど素晴らしい贈り物を次から次へと持ってきても、シン自身の指先一本、ブルーに触れたことはありません。ブルーは本当はこんな贈り物などひとつもいらなかったのです。シンが抱いている、どこの誰とも分からないその相手…。顔も分からぬその相手の身体に、シンの手が、指が、唇が、触れているのだと思うと、気が狂いそうです。覚悟は出来ていた筈だったのに…。

「う…」

床に座り込んだブルーの頬を熱い涙が行く筋も流れ落ちます。シンの仕打ちにここまで心が引き裂かれる、その事実が悔しくてたまりません。シンは元から自分のことなどなんとも思って居なかったのです。分かっていた筈だったのに、胸が張り裂けそうです。

しかし、今までのシンに対する自分の振る舞いを考えれば、シンが自分に触れようとしないのも無理はありません。ここまでこじれてしまった自分の気持ちをブルーはどうすることもできず…。一体彼は、愛人に触れるときにどんなに優しい仕草で触れるのでしょう。一体どんな甘い声で睦言を囁くのでしょう。あの逞しそうな体躯でどんな風に愛人に覆い被さるのでしょう…。外で他の誰かを抱いているシンのことばかり考えてしまい、ブルーはただひたすら唇を噛み締めて、零れてくる涙を堪えるばかりでした。

こんな屈辱的な暮らしを続けるくらいなら、いっそ死んでしまいたい。しかし、シンのおかげで助かった家族の者や元の屋敷の者達の幸せを考えれば、父親がそうしたように全ての責任を放り出して逃げ出すわけにはいきません。どんな辛酸を舐めようとも、生き続けなければなりません。

その後もブルーはことさらシンに辛く当たってしまうのです。シンと決して視線を合わそうとはせず、必要最低限の受け答えしかしません。こんなことではいけない、そう思っていてもどうにもならず、二人のやりとりは更に冷え切っていくばかりでした…。





さて、その翌週、招かれていたアニアン家の園遊会がありました。いつもの通り、シンに言われたとおりに着飾ってシンと二人で車に乗るブルーです。が、ブルーはシンの顔など見ようともせず、ただぼんやりと車の外に流れていく景色を眺めるばかり。

「ああ、あのシャツを着てきてくれたんですね。思った通りよく似合います」
「…別に僕の機嫌など取らなくても、向こうに着けばちゃんと君の資産としてそれなりにふさわしく振舞うさ」
「…」

シンの表情はいつもながら読めません。

「相変わらずつれない人ですね。まあ、皆の前でさえ普通にしていてくれれば構いませんが」
「言われなくても分かっている」

アニアン宅の庭園に到着すると、既に華やかな園遊会は始まっています。煌びやかに着飾った人々が笑いさざめいています。シンは完璧にブルーをエスコートして園遊会に入ると、どうやらビジネス関係の顔見知りらしい人々と話をしに行ってしまいました。ブルーは当たり障りのない程度に見知った顔に挨拶をして回り、シンのパートナーとしての義理を果たしていましたが、一通りの人々に挨拶を終えるとブルーはどっと疲れ、一息つきたくなりました。アニアン家の庭園は、お決まりのように周囲をぐるりと大きな森林に囲まれています。ブルーはなんとなく庭園外れの林の方へ向かってふらふらと歩いていきました。シンは他の人々と話し込んでおり、ブルーがどこに消えようが知ったことではなさそうです。

誰もいない林の中の小道をゆっくりと散策していると、昔初めてシンに出会ったときの思い出が蘇ってきます。キラキラ光る瞳で自分を見上げてくれたあの少年、そして今のシンとの生活…。あのとき自分を救い出してくれるのではないかと少年の瞳を見て思っていた、馬鹿で子供だった自分を思い出し、ふとブルーは自嘲的な苦い笑みを浮かべました。一体自分は何を期待していたのか…。


すると、ブルーの前の茂みの中からがさがさと音がしたかと思うと、一人の男がブルーの前に飛び出してきました。服はボロボロ、頬はげっそりと落ち窪み目だけがギラギラと光り、まるで別人のようになってしまっていましたが、ブルーがその人物を見間違えるわけがありません。

「…父さん…?!」

それは事業で失敗し家屋敷やブルーを抵当に入れてまで多額の借金を作り、一人だけ逃げ出したブルーの父親でした。警備は厳重なはずなのに、一体どこから紛れ込んできたのでしょう。

「やはりお前か…道で見かけてそうじゃないかと思ったんだ」
「父さん、一体こんなところで何をしているんですか。今までどこで何を…」

内心色々複雑な心境が混ざりあうブルーでしたが、今更自分を売った父親が自分に何の用があるというのでしょう。思いつくことは一つしかなく、思わず表情が歪みます。

「お前なんかに俺の苦労が分かってたまるか…なんだ、見てみれば良い服着やがって…随分贅沢をさせてもらってるみたいじゃないか、あぁ?」

父親からはぷんと酒の臭いがします。ブルーの父親という人は確かに華族の血を引いてはいるものの、元々粗野で横暴な男でした。彼は酒臭い息を吐きながら目をギラギラさせて、ブルーに手を伸ばします。こうなると、ブルーは足元が凍り付いてしまったかのように身動きが出来ません。

「丁度良い、お前今あのシンに可愛がってもらってるんだろう。お前のその顔ならどんな男だって垂らしこめるだろうと思ったのさ…。俺は今困ってるんだ。少しくらいは分け前をよこしてくれたっていいだろう?」
「分け前って…一体何を言っているんですか、第一シンは…」
「なんだ…俺に口答えする気か?俺とお前の仲でそんなこと言っていいのか?今の男がどれだけお前を可愛がってるか知らないが、全部ばらしてやったらお前だって困るんじゃないのか…あぁ?」
「はっ…放してください!僕に触るな!」

男の手がブルーに伸び、ブルーは必死で身を捩ります。

「俺に逆らう気か!」

男がいきなりブルーの顔を殴りつけ、ブルーは地面に転倒しました。男は倒れたブルーに飛び掛り、組み伏せます。瞬間、ブルーの全身から力が抜け、ブルーは抵抗を止めました。ブルーは父親には逆らえないのです。やはり、自分の業の深さからは逃れられない…自分は一生幸せになる権利などないのだと、ブルーの心は絶望に黒く染まります。ブルーは全てを諦め、覚悟を決めて固く目を閉じました。

すると、ブルーにかかっていた体重が急に消えました。どこからか現れた人影が、ブルーにのしかかる男を引き剥がし、殴り飛ばしたのです。

「ブルーから離れろ!その汚い手でブルーに触るな!」
「なんだ…てめぇ?!」

地面に倒れ付したままだったブルーを庇うように立ち塞がるその人物は、なんとシンでした。自分が林に入っていったのを、ちゃんとシンは見ていた…?自分ごときには全く注意など払っていないだろうと思っていた内心ブルーはとても驚きました。

「へ、お前がシンか。よほどブルーにご執心らしいな。だが、そいつはそんな顔をしていてもとんだ淫売なんだぜ、第一そいつにはもうとっくの昔に俺が手をつけ…」
「黙れ。それ以上ブルーを侮辱したらただではおかない」

男が思わず黙ってしまうほどの気迫が、シンの言葉には込められていました。男の言葉にも、全く動じている様子を見せません。まさか…、シンは、全て知って…?ブルーは内心蒼ざめます。

「この野郎!」

口では勝てないと悟ったのか、ブルーの父親はいきなりポケットからナイフを出したかと思うと、シンとブルーに向かって飛び掛りました!

「危ない、ブルー!」

シンは咄嗟に全身でブルーを庇い、ナイフがシンの脇腹に吸い込まれていきました!

「シン!!」

刺されてもシンはブルーをひたすら庇い、男ともみ合っていましたが、ついに男を殴り倒しました。そこに悲鳴を聞きつけて人々がかけつけ、警備の者達がブルーの父親を取り押さえました。

「怪我人が…!」
「医者を呼べ!早くしろ!」

周囲の喧騒が遠くに聞こえます…。

「シン…シン!」

地面に倒れ、脇腹から血を流し続けるシンに取りすがり、ブルーは必死でシンの名を呼びます。シンのシャツには血のりがべっとりとついており、傷はかなり深そうです。

「ブルー…急にいなくなるから…心配したんですよ…」
「シン、どうして僕のことなんか庇ったんだ…僕は…」
「…貴方が無事で、よかった…」

それきりシンはそのまま意識を失い、駆けつけてきた医者と共にどこかへ運ばれてしまいます。もしこのまま、シンの意識が戻らなかったら…ブルーは足元の地面がガラガラと音を立てて崩れていくような気がしていました。よくよく考えてみたら、シンはなんだかんだ言いながらいつも自分のことを気遣ってくれていたではありませんか。贈り物を口実に、いつも頻繁に自分の顔を見に来てくれていたではありませんか。ただ自分が気づかなかっただけで、いや、気づこうとしなかっただけで…。




シンの手術は無事に済み、医者の往診&自宅介護ということで邸宅に戻されましたが、シンはそれから数日意識の戻らない日が続きます。ブルーはシンが目を覚ますのを待ちながら、献身的な介護を続けました。「僕がやるから」とおつきの者達には一切手伝わせず、朝も昼も夜もつきっきりで、シンの部屋に寝起きしながらの介護です。

ある晩いつものようにシンのベッドの傍らに腰掛け、ブルーはいつものように今までの自分の態度をとても後悔していました。目を閉じているシンの顔はどこかあどけなく、あの子供の頃を彷彿とさせました。

「ジョミー…」

シンを見つめるブルーの瞳から、ぽろりと涙が一粒零れ落ちます。ブルーが握り締めたままだったシンの手に、その涙の粒がぽとりと落ちると、なんと、シンの瞼がゆっくりと…開いたではありませんか。

「ブルー…?僕の名前…呼んで…くれた?」

乾いて掠れ、弱弱しい声でしたが、シンの意識が戻ったのです!喉がからからで思わず軽く咳き込むシンを見て、ブルーは慌てて水差しからシンに水を飲ませました。

「ああ…夢じゃないんですね、貴方がいる…」
「ジョミー…」
「ごめんなさい、また貴方を…泣かせてしまったね…」

シンの手が力無く上がり、涙で汚れたブルーの頬に触れます。そのとき初めてブルーは自分が子供のように泣きじゃくっていたことに気づきました。

「僕はいつも…貴方に辛い思いばかりさせてしまっている…」
「違う、違うんだ…ジョミー…」

ブルーは嗚咽を堪えながら必死で首を横に振りました。

「僕と一緒になりたかったと…言ってくれ…アルタミラの家名ではなく、僕が、欲しかったと…」
「…そう言えば貴方に軽蔑されるだろうと思って、言えなかったんだ…だって僕は、こんな卑怯な真似で貴方を手に入れて…おかしいでしょう?事業のことならどんなに大きな決断を下せても、貴方の反応が怖くて、貴方にまともに愛の告白一つ囁くことすら出来なかったなんて…」
「ジョミー…」
「貴方を守りたかったんだ…でも、貴方を金で買っておいて、今更愛してますだなんて…言えるわけがない…」
「…!ジョミー、僕は君にそんな風に想ってもらえる資格なんてないんだ、だって僕は、子供の頃からずっと父さんに…」
「知ってたよ、ずっと…」
「え…?」

ブルーの目が驚愕に見開かれます。

「あの後、貴方のことが気になって…貴方の屋敷の庭に何回か忍び込んだことがあるんだ。それで、窓から…見えた…」
「そ…んな…」
「いつか力をつけて、貴方をあそこから救い出したいと、ずっと思っていた…時間がかかりすぎて、随分遅くなってしまったけれど…」
「ジョミー…」

シンはブルーに、自分のベッド脇に置いてある小箱を開けるよう身振りで示します。まるで宝箱のようなその箱を開けてみると、中からはレースに縁取られた白いハンカチが入っていました。ブルーはそのハンカチに見覚えがありました。間違いありません、これはシンがまだ子供の頃に園遊会で出会ったときにあげたハンカチです。シンはそれを、ずっと今まで宝石のように後生大事に持っていたのです…。

「これ…」
「これでやっと貴方を守れると思ったのに、僕はまだまだ子供で…結局貴方を泣かせてばかりで…」
「…!!ごめん、ごめんなさい、ジョミー…!僕が子供だったんだ、僕はずっと…君が、好きだった…」
「ブルー?」
「ずっと…素直になれなくて、言えなかった…お願い、怪我が治ったら、僕を…抱いてくれ…」
「ブルー…!僕、今動けないのに、そんなに積極的に誘ってもらっても困ってしまうよ」

シンは苦笑を浮かべながらブルーの頬を撫でます。ブルーは自分がつい口走ってしまった台詞に気がついて真っ赤になりました。

「貴方の受けてきた傷を考えたら、貴方に絶対触れてはいけないと思うのに…同じ屋敷の中に暮らしているんだと思ったら、理性がもたなくて…仕方なくて外で発散するしかなかったんだ。僕が本当に抱きたいのは、貴方だけだよ、ブルー…」
「じ、じゃあ、怪我が治ったら…その…僕を抱いてくれる、かい…?」

とてもシンの目を正視することができないブルーです。

「難しいな…だって、きっと僕は自分を抑えられない。一度想いを遂げてしまったら、貴方がもうイヤだって泣いて懇願しても、閨から永遠に出したくなくなってしまうよ…」

ブルーは何故だかとてもほっとして、全身から力が抜けました。

「まだ一番大事なことを伝えてなかったね、ブルー…。貴方が、好きです。貴方を、愛してます。お願いです、ずっと一生…僕の伴侶として僕の傍に、いてくれませんか?」
「…!ジョミー、こんな僕でよかったら…喜んで…」

ブルーはまだボロボロと泣き始めました。シンの手は弱弱しくも、優しく涙で汚れたブルーの頬を撫でてくれます。

「僕こそ、こんなに意地っ張りで」
「うん」
「プライドばっかり高くって」
「うん」
「素直じゃなくって…」
「うん…」

泣きじゃくるブルーを見つめながら、シンは優しい目をして頷くばかり。

「でも、そんな貴方が好きだよ…」



ブルーの父親は殺人未遂で起訴され、監獄行きとなることになりました。やがてシンの傷も完治し、別々だった寝室は一つになり、ブルーの望み通り二人は心身ともに伴侶となりました。ブルーとシンはその後いつまでも仲睦まじく暮らしましたとさ☆
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