ASIAの独り言

在米ジョミブル者の独り言。全て自己責任でお読み下さい。
愛の妄想劇場・テラニア国物語焼き直し版(3)
テラニア物語の第三部です。今回も相変わらずワンパターンで陳腐な上にドラマクイ~ンな展開ですが、糖度は高め(^▽^)あと新規リンク様一件追加いたしました♪

テラニアはここで終わる予定だったんですが、ほのぼのえち~(なんだそりは)を入れたくなったのでそれは切り離して後日オマケシーンとして別個アップする予定。

どんなしょ~もない内容でも許せるよって方のみ↓ドウゾ~☆



振り下ろした剣、確かな肉の手応え。

みるみるうちに冷たくなるシンの身体。

僕は…僕は…。

あれほど、憎かった筈の相手なのに、僕は一体…。




白い魔女はシンを殺した後、手下の皆を呼び集めて勝利の宣言を高らかに行いました。そして、テラニアに残る全ての邪悪な生き物達を呼び寄せ、アダムの息子、イブの娘達の率いる軍勢に一気に攻め入れて片をつける方針を明らかにしました。喜び勇む邪悪な者達…しかし、白い魔女の胸のうちは全く違うところにありました。

自らの手でシンの命を奪った瞬間、白い魔女は自分の残った心の欠片が一緒に消滅してしまうのを感じたのです。あれほど憎んでいた仇の筈なのに、今の白い魔女の中には空虚な喪失感しか残されていませんでした。以前はテラニアの中には感じなかったものの常にシンの生命の息吹を感じていた白い魔女でしたが、今はテラニアだけでなくこの世のどこにもシンの存在を感じません。シンの命を共に、僅かに残っていた心の欠片を奪い取られ、白い魔女は全てを見失ってしまいました。

初めてシンと出会ったときにシンにつけられた胸についた醜い傷跡。今となってはそれだけがシンの存在を唯一思い出させてくれる、自らに刻み付けられた証でした。今まではそれを確かめることにより、シンへの憎しみを再確認していたはずでした。しかし、シンを自らの手で葬ってしまった今、その傷に触れても今までのような憎悪が全く沸き起こって来ないのです。代わりに感じるのは、失ってしまった存在の大きさのみ…。胸の傷跡をを自らの指で辿りながら、白い魔女はぼんやりと、どんどん集まってくる邪悪な生き物達を眺めます。白い魔女はもう生きていく気力を失ってしまいました…。

しかし、シンを自らの手で殺してしまった今、自分で自分の命を断つことすらできないブルーを殺すことの出来るのは、いまや人間の子供達のみです。邪悪な生き物達の喜びそうな演説などしてみせましたが、実はブルーはテラニアの命運を賭けた戦に勝つつもりなど全くありませんでした。すっかり自暴自棄になってしまったブルーは、テラニアに潜む邪悪な生き物達を全て引き連れて心中を図るつもりだったのです。どうせならばシンの手にかかって死にたかった。しかし、テラニアにシンがいなくなってしまった今、人間の手にかからなければ白い魔女は死ぬことが出来ません。いっそのこと、それならば、テラニアにそぐわぬ生き物達全てを道連れにしてしまおうという魂胆でした。

皮肉なことに、白い魔女のシンに対する執着は、自らの手でシンを葬ってしまったことで、ますます大きく育ってゆくばかり。テラの浄化を革新的に飛躍させる結果となっていったのです…。


テラニアにはびこる醜い生き物達を道連れとして引き連れ、白い魔女は人間達の率いる軍団に攻め入ります。そうして最後の戦いが始まりました。白い魔女はもう生きていく希望を全く失っており、自暴自棄になりながら物凄い勢いで剣を振るいます。しかし、剣や魔法の杖など使わなくとも、ひとたび白い魔女に少しでも触れようとしたものは、たちまち石の彫像に変わってしまいましたので、誰一人として白い魔女に攻撃を仕掛けられるものはおりませんでした。どんどん数が増えていく石の彫像を、白い魔女は感情の全く篭らない虚ろな目で見つめます…。

(早く、早く出て来い、アダムの息子達。そうして僕にさっさと引導を渡すがいい…)

アダムの息子のもう一人が、白い魔女との一騎打ちを仕掛けてきました。これはいい、白い魔女はぼんやりと思います。伝説の役割を担っている筈のこの子なら、他の者のように自分にかけられた呪いのせいで石に変わることなく、この忌まわしい命を断ち切ってくれる筈。しかし、ここまで来てただ何もせずにむざむざと殺されるというのも癪に障ります。自分に向かって振り上げられた剣を、白い魔女は殆ど反射的に自らの剣で受け止め、二人は物凄いスピードで剣を戦わせます。他の者達は、アダムの息子と白い魔女に近寄ることすら出来ず、二人を取り巻くようにして固唾を呑みながら事の次第を見守っているようでした。

(早く全てを終わらせてくれ…僕も、早く…シンの元へ、行かせてくれ…)

無意識にそんなことばかりを思いながら、機械的に剣を繰り出す白い魔女です。アダムの息子はテラニアに来てから誰かに剣の訓練を受けたらしく、その動きは俊敏で白い魔女も舌を巻くほどでした。ですが、何せアダムの息子はまだ成長しきっておらず、同じように剣を振るってもなかなか白い魔女の懐まで飛び込むほどには届きません。もうこうなったら自らその剣の前に身を投げ出してでもいいから、早くこの命を終わらせてしまいたい、白い魔女はそんなことすら考え始め、わざとアダムの息子の剣の前に無防備に身体を晒し始めました。

が、次の瞬間、信じられないことが起きました。

戦場の全てを轟かす雷の様に、偉大なるライオンの咆哮が響き渡るではありませんか。間違いありません、シンの声です!!戦場にいた全ての者達が、想像もしていなかったあまりの出来事にその動きを止めました。

「な…?!」

白い魔女は信じられない思いで振り返りました。すると、日の光を背にし、丘の向こうからゆっくりとシンが王者の風格たるライオンの姿で現れるではありませんか!確かにこの手で命を仕留めた筈なのに、シンが生きていた…!その気持ちが、驚愕なのか、憎しみなのか、喜びなのか、もう白い魔女自身にも分かりません。白い魔女の視界はグラリと歪みました。

(彼が…生きていた?馬鹿な…っ)

その隙を見逃さず、アダムの息子は身動き一つ取れなくなってしまった白い魔女に向かって、剣を振り上げました。すると、

『待て!!』

掲げられた剣を止めるように、ライオンの雄叫びが再度轟きます。

『それは、僕の獲物だ!他の誰も、手を出すな!』

それだけ高らかに宣言すると、偉大なるライオンは優雅な姿で丘を飛び降り、目にも留まらぬ迅速さで疾風のように戦場を駆け抜け、邪魔が入る前に白い魔女に向かって飛び掛りました。白い魔女は自分の目が信じられない思いで自分に向かってくるシンを見上げます。ライオンと白い魔女は、跳躍する獣の勢いそのままに地面にもつれ合ってゴロゴロと転がり落ち、獲物を捕らえた肉食獣の前足に、白い魔女の体は地面に押し付けられました。そのあまりの力に、白い魔女がどれほどもがいてもその身体はびくともしません。同時に、シンの引き連れてきた加勢の軍団が、白い魔女の軍勢に向かって突っ込んでゆき、戦場は大混乱の乱闘と化しました。ライオンと白い魔女の戦いがどうなっているか、目を向ける余裕のある者などおりません。敵味方が入り乱れる戦場で、シンと白い魔女は二人きりで相対することとなりました。

「シン…生きていたのか…っ、この手で、留めを刺した筈なのに、何故…」

あれ程に苦しんだというのに、白い魔女は結局シンに触れることも出来ず、殺すこともできなかった…。なんだかもう全てがどうでも良くなり、偉大な獣にのしかかられながら絶え絶えの息で白い魔女が問いかけます。こんな状況だというのに、その美しさに気を取られてシンは白い魔女の蒼白な顔を見つめました。本来ならば、白い魔女はアダムの息子に討ち取られてもよかったのですが、シンはどうしても他者の手に白い魔女の運命をゆだねることだけは許せなかったのです。自分達の宿命を変えることができないのであれば、せめて自分の手で白い魔女の最期を迎えさせてやりたいと思っていました。テラニアの浄化が終わるまで、定められた役目にがんじがらめにされている自分には、これくらいしか白い魔女にしてやれることがなかったのです。それが今のシンにかけることの出来る最大限の慈悲でした。

『他の誰にも、貴方に手をかけることは許さない。貴方に触れていいのは、この僕だけだ…ブルー…』
「僕を…殺すのか、シン…」

もうそれでもいいと、白い魔女は心から思っていたのです。テラニア中の生き物達に憎まれる、呪われた身である自分の生涯を終えるには、身に余るほどの光栄だと。これからシンに自らの命を奪われようというのに、一体どうしたことでしょう、白い魔女は初めてシンの目の中に自分に対する慈愛を感じ取っておりました。シンの手にかかって命を落とすことは、今の白い魔女にとっては本当に唯一の心からの望みであったのです。白い魔女の吐息は歓喜に震え、その瞳からは、ぽろりと一粒の涙が零れました。初めてシンに合間見え、ズタズタに引き裂かれたあの日から、初めて白い魔女が流した涙です。シンはその涙の粒に見とれながら、熱く飢えた吐息と共に白い魔女に向かって愛の告白とも取れそうな言葉を紡ぐのです。

『僕がこの手で殺してあげるよ、ブルー。貴方を他の誰にも渡さない。貴方は僕だけのものだ…』
「そう…か…おかしなものだな、お前に殺してもらえるのがこんなに嬉しいなんて…」
『もうすぐ、もうすぐだ、ブルー。もうすぐ、全てが終わる。そうしたら、もう…』
「もう、早く、終わらせてくれ…何もかもを、シン…」

(…嬉しい…)

ライオンの熱い吐息をその喉笛に感じながら白い魔女が観念したように目を閉じると、シンはその望みに応えるように、高らかにひとつ咆哮を上げると、その獣の鋭い牙を白い魔女の身体に突き立てました。シンの牙に貫かれ、白い魔女の身体はひくひくと痙攣し、そうしてその心の臓はやがてその動きを止めました。ぐったりと地面に横たわる白い魔女の顔は、しかしどこか初めて見せる、ほんの少しだけ照れたような、どこか嬉しそうな色に彩られた表情を浮かべていました。次の瞬間、シンの目の前で、白い魔女の姿はそのまま煙のように掻き失せてしまいました。

が、その後に何か光るものが残っています。それは、涙の形をしてキラキラと光っておりました。それは多分、白い魔女が最期に流した涙だったのでしょう…。シンに抉り出されてもう何も残っていない筈だったのに、ひとかけらの心が残っていたのです。シンは他の誰にも見えないところで、白い魔女の残した涙の粒をそっと宝物のように仕舞いました。が、感傷に浸っている暇はありません。まだシンにはもう一仕事残っています。とにかくこの戦を終わらせ、テラニアの浄化を完成させなくては…。とりあえず私情を抑え、シンは最後の役目を終わらせるために、アダムの息子達の軍勢のところへと戻っていきました…。





「…?」

テラニア国の隅のある小さな洞窟で、ブルーが目を覚ましました。銀色の髪、紅い目、全く以前と同じ姿そのままです。どうやらどこかに横たえられているような…。ブルーは何度か、その銀糸のような睫に縁取られた瞼を瞬きしました。少しずつ、今までの記憶が蘇ってきます。自分はどうやら一度死んだ筈…。ならば、ここは死後の世界なのでしょうか。しかし、目を覚ました洞窟は自分が以前初めてテラニアで目を覚ました洞窟と酷似しているような気がします。

今までの記憶が残っているブルーは、もしかするとまた以前と全く同じ運命を生き直さなければならないのではなかろうかと、思わず身構えました。しかし、以前と違う、とふと感じた理由を探ってみると、横たわっていた自らの体の周辺に沢山の花が積まれていることに気づきました。色とりどりの美しい花達は、それはそれは馨しい香りで優しくブルーの身体を覆ってくれています。ブルー自身の身体は、一糸纏わぬところに薄絹一枚がかけられているのみでした。

「花…?」

自分の周辺に敷き詰めらている花の一輪に恐々手を出してみたところ、花は凍ることもなく石になることもなく、ふわりと柔らかなその花弁もそのままにブルーの手の中に納まりました。どうやら自分の身体は以前とは多少変わっているのかもしれません。気がつけば、昔シンにつけられた醜い胸の傷跡も消えており、肌はすべすべのままでした。忌まわしい記憶は全て残っていましたが、まるで本当に生まれ変わったかのようです。

洞窟の中に隠れているばかりでは、自分の置かれている状況も分かりません。ブルーは身体にかけられていた薄絹を纏って、勇気を出して外に出てみることにしました。

外に一歩足を踏み出したところ、そこはまるで天国のように美しい世界でした。美しい草花が生い茂り、木々の梢が草原を抜けてゆく風にざわめき、遠くには小川が流れているものか、水のせせらぎが聞こえてきます。耳に届く鳥達の歌声も、冬景色ばかりに慣れ切っていたブルーにとっては気が遠くなりそうにとても懐かしいものでした。

と、そこに一匹のナキネズミが飛び出してきました。間違いありません、自分が初めて石の彫像にしてしまった、あのナキネズミです。

「君…!元に、戻れたんだ…よかった…」

ナキネズミはそのままテトテトとブルーに近付いてきます。

「…!だ、駄目だよ、それ以上近付いたら!危ない…っ!」

ナキネズミはぴょんとブルーの肩の上に乗ってきました。ナキネズミがまた石に変わってしまうところを見たくなくて、ブルーはぎゅっと目を瞑ります。

「…?」

しかし、ブルーが感じたのは、獣特有のふさふさとした尻尾と、濡れた小さな鼻が自分の頬に押し付けられる感触のみでした。恐る恐るブルーが目を開くと、ナキネズミはちょこんと自分の肩に乗り、小さな舌でブルーの頬を舐めているではありませんか。あの呪いのような魔力が、ブルーの中から消え去っているようなのです。ブルーは本当に心底ほっとして、その場にへたりと座り込んでしまいました。ナキネズミはひとしきりブルーに顔を摺り寄せると、またちょこんと飛び降りてどこかへ行ってしまいました。

(よかった…)

ナキネズミを見送ると、ブルーは再度あたりを眺めます。このように穏やかで美しい景色を、ブルーはいまだかつて見たことがありません。テラニアに産み落とされてからというもの、いえ、シンによって変化させられてしまってからというもの、ブルーの見ることが出来たのは、冷たく凍りついた冬の銀世界ばかりだったのです。

(それにしても、一体ここはどこだろう)

自分は確かに一度死んでしまった筈なのに…。ブルーはもう一度、自分が死んだときのことを反芻してみました。一体戦争はどうなってしまったのだろうか。確かに自分はシンの牙にかけられて命を落とした筈…。シンにあれ程厭われていた筈なのに、シンのことをあれ程憎んでいた筈なのに、アダムの息子の代わりに生き返ったシンの手にかかって命を落とすことが出来たことを嬉しく感じていた自分…。と、シンのことを考えていた、まさにその瞬間、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきました。


「目を覚ましたんだね、ブルー」
「…?!」

驚いたブルーがすぐさま振り返ると、目の前に立っているのはシン本人ではありませんか。ブルーはすぐに立ち上がると、いつでも逃げられるように身構えました。しかしシンは以前のあの冷たい目つきとは違う、どこかまだ幼い少年のように優しい目をしています。その手には、たった今どこかから摘んで来たと思われる、綺麗な花が一輪。目を覚ましたときに自分の身体の周囲に敷き詰められていた花と同じものでした。

(あの洞窟の花は、ひょっとして…)

「残念。貴方が目を覚ましたときに傍にいたかったんだけどね」

シンが一歩近寄ってきます。ブルーは全身をビクリと震わせて、シンから距離を取ろうかとするように一歩下がりました。何故、よりによってシンがここに…。今一番会いたかった筈の存在なのに、同時に怖くて全身が竦みます。ブルーが生まれて初めてテラニアに産み落とされたあの日の恐怖が蘇ってきたのです。

「ブルー、僕は貴方を傷つけないよ、だから僕を怖がらないで…と言っても、無理な話かもしれないけれど…」

シンはそのままゆっくりと、ブルーを怖がらせないように近付いて、手にした花をブルーに向かって差し出しました。ブルーはしばし差し出された花を見つめるしか出来ませんでした。しかしシンは忍耐強く、ブルーが次の行動を起こすのを待っています。ブルーはおどおどとシンの顔色を伺いましたが、そこには全く他意は見られない様子です。

「洞窟の花、気に入ってくれた?」
「あ、あぁ…」

なんと答えてよいのか分からず、とりあえずブルーはうなずいて、シンから花を受け取りました。もしシンがまだ自分の敵であったとしても、どうせ自分はシンにはかなわないのですから、今ここでじたばたしたところで始まりません。

「テラニアは以前よりも美しくなって蘇った。この花も…。全部貴方のおかげなんだよ、ブルー。貴方の力で、テラニアを蘇らせることが出来たんだ」

シンが周囲の景色を指し示して言うのです。自分のおかげとは、一体どういう意味でしょう。この美しい世界が、生き物の命を奪うことしか出来ない呪われた自分の力で蘇ったなど、考えられないことです。ブルーはシンの言葉の真意を掴みかねて、首を傾げました。

「君の…言っていることが、よくわからない…僕は、死んだのではないのか」
「うん…確かに一度死んだけど、蘇ったんだ。貴方の力は浄化の力で、僕の力は再生の力だから。貴方の残した涙から、僕が貴方を蘇らせたんだよ」

シンの差し出した花の馨しい香りは、ブルーの心を慰めました。シンの言っていることがよく分からず、きょとんとしたままのブルーに、シンは少しずつ説明を始めました。シンとブルーに課された役目のこと、そしてテラニアの浄化のこと。最初から、何もかもを。不思議なことに、生まれ変わったブルーの中にはもうシンへの憎しみは欠片も残されておらず、ブルーはシンの話を素直に聞くことが出来たのです。にわかには信じがたい、途方もない内容でしたが、なんとなく全て説明がつくような気がしました。だって、目の前に立っているシンは、ブルーが初めて会ったときにきっとこんな人であるだろうと期待した人物像そのままだったからです。出会ったその瞬間から、ブルーはシンを愛してしまっていたのですから…。

「ねえブルー。貴方はきっと覚えている筈だよ、僕の名前を」
「シン…というのが、君の名前だろう…?」
「違うよ、シンというのは僕の役割につけられた名前。貴方の本当の名前がブルーであるように、僕の本当の名前を、貴方は知っている筈だ」
「…ジョミー…?」

一体何故自分がその名を知っているのか、ブルーにも分かりません。ですが、ブルーは何故か目の前の『シン』と呼ばれていた青年の、本当の名を知っていました。自分の真の名を告げられたシンはとても嬉しそうに微笑み、ブルーの頬にその手をそっと触れさせました。びくりと一瞬身を竦ませたブルーですが、その場から逃げることもせずじっと立ち尽くしています。シンはブルーの心を宥めようとするかのように、ブルーの頬を撫でながら答えます。

「そう…僕は、ジョミーだよ。貴方だけの、ジョミーだ」

触れられているシンの手からブルーの身体にその暖かさと愛が伝わってきます…。呪いのような魔力を持って生まれてきたブルーにとって、他人の体温をこれほどまでに近くに感じたことはいまだかつてありませんでした。まるでブルーの心を読んでいるかのように、シンが囁きます。

「貴方に辛い役割を背負わせてしまったね。ずっと、貴方が一人ぼっちで泣いてたの、僕は聞こえてた。でも、これからはずっと僕が貴方の傍にいる。貴方が今までたった一人で払ってきた犠牲の、ご褒美なんだよ」
「ご褒美…?」
「そう。テラニアの浄化は終わったんだ。僕達の役目も、もうおしまい。僕はもう誰のものでもない、貴方だけのものだ。僕が貴方を独り占めしてもいいように、貴方も僕を独り占めしていいんだ。貴方が僕のことを許してくれなくても、貴方が嫌だと言っても、ずっと貴方の傍にいるよ」

本当なのでしょうか。今までテラニアの生き物達から神のように崇め奉られてきた存在であるシンが、自分だけのものになる…。そのような贅沢が、自分のような呪われた存在に許されても良いのでしょうか。

「嘘だ…そんな都合のいいことが、あるわけがない…」

にわかにシンの言葉を信じることが出来ず戸惑いを隠せないブルーに、シンは優しい笑顔で微笑みます。上手く言葉が出て来ずにたじろぐばかりのブルーの顔を、シンの指がちょっとだけ持ち上げたかと思うと、シンの顔がゆっくりと近づいてきて…口付けられました。あの初めて洞窟で引き裂かれたときとは全く違う、優しい口付けです。そう…ブルーはどこかで分かっていたのです、自分に向けられる冷たい視線に関わらず、これがシンの本質であるということを。ブルーとシンは、始めから対になるよう定められた二人であることを…。シンに重ねられた唇から、シンの癒しの力が注ぎ込まれてくるようです。ささくれ、傷ついた魂に、シンの力が注ぎ込まれていくような気がします。

ゆっくりと離された唇を震わせ、ブルーはそのままシンの腕の中に自ら飛び込みました。そんなブルーを、シンはしっかりと抱きしめます。ブルーも、応えるようにシンに縋り付き、幼子のようにしゃくりあげます…。宥めるようにブルーの背を撫でながら、ジョミーはブルーを安心させる言葉を何度も何度もその耳に囁きました。

「ごめん、ブルー…本当に、ごめん…貴方をずっと一人にして、泣かせてしまって…」
「ジョミー…もう、一人はいやだ…お願い、ずっと傍にいてくれ…」
「うん…僕は全部、貴方のものだから…」

美しく蘇ったテラニアの草原で、自らを犠牲にしてその偉大な役目を果たし終わった一組の恋人達は、今度こそ永遠の愛を誓うのでした…。


☆終わり☆

…ちょっとしたオマケシーンを後日アップ予定…
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